時代を100年先行したとも評されるアドラーの思想

しかし、アドラーの考えは違う。彼が引きこもりを脱せないのは「引きこもりを脱したくない」と決心しているからだ。不安だから外に出られないのではない。外に出たくないからこそ、不安という感情をつくり出している。「外に出ない」という行為は、過去のトラウマという「原因」の結果ではなく、現在と未来に向けた「目的」を果たそうとした結果だ。私たちは、「変わりたくても変われない」のではなく、「変わりたくないから変わらない」のだ。

人間は「過去に規定される」という「原因論」を受け入れてしまえば、私たちは現在と未来に対して無力であることになる。アドラーはそんなニヒリズムを徹底的に退け、人間は「目的」に向かって行動するという「目的論」を唱える。あくまでも可能性に目を向け、「人は変われる」ことを前提に考える――これがすべての出発点にならなければいけない。