海を熟知している漁師も転落事故で毎年死亡者が出る
「板子一枚下は地獄」と言われるように、船に乗っている間は常に死と隣り合わせの危険な状況にあることを自覚しなければならない。それは、海を熟知しているはずの漁師の例を見れば一目瞭然だ。漁船も当然、2018年から小型船も含めて、ライフジャケット着用は必須条件となっている。
水産庁によれば、漁業協同組合を通じた聞き取りなどによる調査では、2023年の全国平均で着用率が9割を上回った。ただ、徳島県や兵庫県、香川県、愛媛県、大分県など、瀬戸内海に面した地域では率がやや下がる。
その要因について水産庁は、「島が多く周知が進んでいないことに加え、比較的狭い海域で船舶の航行が多いことから、『万が一の時はほかの船が救助してくれるだろう』といった考えもあるのではないか」とみている。
この全国調査が実態をどの程度反映しているかは未知数だが、気になるデータがある。同庁によると、「近年、海中転落した漁業者の着用率は約5割と低い」と打ち明ける。船上で脱いでしまうのか、そもそも出港時から着用していなかったのかはわからないが、「かさばって作業しづらい」「着脱しにくい」「(漁船上の機材などに)引っかかったり巻き込まれたりする恐れがある」といったことが着用しない理由に挙げられている。
こうした状況を反映してか、2023年の海上における漁船の人身事故者は合計252人(海上保安庁調べ)。このうち海中転落者は62人で、半数以上の38人が死亡あるいは行方不明となっている。船舶種類別でみれば最も多い。
着用義務化前の2017年と比べると事故者数などは減少傾向にあるが、実際に昨年、ライフジャケットを着けずに海に投げ出され、死亡・行方不明になった漁師も多くいたことは確かだ。