地球に不時着した宇宙人とは何者か?

地球に不時着した宇宙人がやってきたのは、ちょっと風変わりな職業相談所。宇宙人は相談所のスタッフと一緒に、この星で生きていくこと、働くことの意味や喜びについて考えはじめる。「そもそもおしごとってなんだろう?」

ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞など数々の賞に輝く絵本作家やイラストレーターとしてだけではなく、「週刊文春」の人気連載『ツチヤの口車』の挿画家としても活躍する、ヨシタケシンスケ。新刊のおしごとそうだんセンター(集英社)は、子どもも大人も楽しめる、仕事について考える絵本。

ヨシタケシンスケ『おしごとそうだんセンター』(集英社)
ヨシタケシンスケ『おしごとそうだんセンター』(集英社)

同じカタログ形式で職業を並べる『13歳のハローワーク』と根本的に違うのは、ここで紹介されるのはすべて「架空の仕事」だということ。これまであった仕事が10年後に存在するかどうかもわからない、そんなAI時代のとば口ならではの仕事論だ。

胴上げ屋、大道芸コーヒー、おひとりさまミステリーツアー、時空引越し便、インスピレーション屋、隠ぺい屋、未解決事件紹介所――。組織人には逆立ちしても出てこないであろうぶっ飛んだ発想力を持ち、人間の絶妙な表情や話し言葉を描き取るヨシタケならではの架空の仕事の数々。実際、ヨシタケ本人は組織には適応できなかったとインタビュー記事で語っている。ところがそんな架空の仕事はまるでメタファーのように現実の何かの仕事を映し、最後のコマに必ずあるオチには微量の毒やクスリとした笑いが仕込まれている。

自分の仕事だって、10年後に存在するんだかしないんだか。そう思うと肩肘張るのも阿呆らしくなり、こうあらねばと現状にしがみつく指先もふっと軽くなる。そして時折挟まる、宇宙人とお姉さんとのやりとりの漫画パートには、うっかりすると泣かされること保証。「どんな人も、おしごととそれ以外でできている」「たとえばおしごとで何かしっぱいしても、おしごとがおわったら、そのことはもう考えなくていいの」「『おしごとで一番大事なこと』と『あなたにとって一番大事なこと』は同じとはかぎらないからね」。冒頭で取り上げた「ぼろぼろ」の電通マンが現役の頃だったら、これをどう読んだだろう。