バブル期を駆け抜けた電通マンの自伝、若いうちは「レールから外れよ」という主張、地球に不時着した宇宙人の仕事探し、そして大著『スティーブ・ジョブズ』の翻訳者の仕事人生など……コラムニストの河崎環氏が、仕事と人生を考える「熱い」4冊を乱れ読み……。
本が並んだ大きな本棚
写真=iStock.com/Alfons Morales
※写真はイメージです

世界の中心にいたかもしれない元電通マンのリアル

「新生活」と誰かに断じられて放り込まれた、あるいは自ら飛び込んだ新年度。4月の否定しがたい緊張に桜色の高揚や鼓舞を無理やり混ぜて走ってみた春はあっという間に過ぎていった。俺(私)、この先どうしようかなぁ。この時期になると、そんな心の声が聞こえてきそうな顔たちと街ですれ違う。上昇する気温や長い夏の予感で自分たちをごまかすけれど、もう1年も半分が過ぎちゃったよ。筆者のそんな気分を反映してか、なんとなくキャリア論が気になった。

「就職サイトには絶対に載ることのない、巨大広告代理店の真の姿」とうたうのは、電通マンぼろぼろ日記(福永耕太郎/フォレスト出版)。

福永耕太郎『電通マンぼろぼろ日記』(フォレスト出版)
福永耕太郎『電通マンぼろぼろ日記』(フォレスト出版)

バブル絶頂期を含める30年間にわたって「あの時代」の広告代理店に勤め、最前線で営業職として汗をかいた、60年代生まれの著者による怒りと悲哀と笑いの記録だ。これまでにメガバンク銀行員、タクシードライバー、ディズニーキャスト、保育士、大学教授など、それぞれの職業の現実を当事者が笑いと汗と涙まじりに綴ってきた現場ドキュメント日記シリーズの最新刊。今回もすべて実話の生々しさで、しかも著者に隠す気があるのかないのか「匿名」がいまいち匿名になっておらず、有名企業やタレント、大物政治家など容易に想像がつく。読み手のほうがヒヤヒヤするほどである。

電通マンの土下座の作法、ゴルフ・料亭・ソープ接待、タクシー券の使い方、ギョーカイにおける薬物スキャンダル、高額と言われる電通の給料の現実、テレビ局や新聞社とのズブズブな関係、同業他社との首を懸けた熱戦の攻防、動く巨額の金、五輪、ジャニーズ、クライアントは神さまです……。ひとりの苦学生が、あの当時のマスコミの花形であり、もしかして表も裏も、本当に世界の中心あたりにいたのかもしれない電通という広告代理店に就職する。そうして手にしたキャリアで、普通なら決して会えない人に会い、行けない場所へ飛び、一般人には飲めない酒を飲んで、見られない風景を見るのだ。