日本人の長時間労働率は41カ国中36位
残業に関しては日本では基本的に年間360時間以内、届け出をすれば720時間以内の時間外労働が許可されている。その賃金は22時まで1.25倍、22時以降は2倍。平日1.5倍、休日2倍というハンガリーよりもはるかに少ない。
さらに、日本には、子どもが3歳まで残業禁止というような法律はなく、かろうじて、妊娠中なら残業免除を申請できるというものがある。しかし、すぐに「子持ち様」と揶揄されるような社会では残業免除を申請しやすい環境であるとは思えない。
OECDは「長時間労働=週50時間」と定義しており、日本人の15.7%が週50時間働く。これはOECD41カ国中36位だという。反面、ハンガリーは1.5%しかおらず、OECDで8位とワークライフバランス上位の国である。
日本政府がすべき3つの改善点とは
日本人の長時間労働は世界でも有数の長さなのに、その生産性はOECD加盟38カ国のうち30位と主要7カ国では最下位だ(2022年)。働いても生産性が上がらないし、プライベートの時間ももてない。少子化を少しでも食い止めるには、ワークライフバランスを整える必要がある。そのために少なくとも3つの改善点がある。筆者の国内外での取材を通じて導き出した案を述べたい。
第一に、雇用形態を問わない有給休暇の拡充と病気休暇の導入だ。働く女性の54.4%が非正規雇用であることを踏まえると、雇用形態にかかわらず、法律で最低の年休を拡充させ、ハンガリーのように連続で1年間に2週間以上とらせる。取得率を100%にできない企業や病気休暇を導入しない企業には法的なペナルティを課す。これは、ワークライフバランスや生産性を向上させることだけではなく、非正規vs正規の階級化を防ぐ。
日本では正社員が非正規社員を「ハケンさん」「パートさん」と呼ぶ習慣がよく見られるが、正規と非正規であからさまな格差をつけるから、このような“身分制度”ができ上がる。雇用形態を問わない年休や病気休暇に加え、同一労働同一賃金も徹底すべきだろう。
「雇用形態を問わない有給休暇の拡充と病気休暇の導入」の実現には法律制定が必要だ。負担が大きくなる企業からは抵抗が予想されるが、ここは政治家の皆さんに頑張ってほしい。
第二に、残業の禁止だ。育児しようがしまいが、基本的に残業のハードルを上げるべきだろう。現在の1年間360〜750時間ではなく、ハンガリーを参考に250〜300時間に設定する。残業代も通常の賃金の1.5倍から2倍に設定する。
日本の男性は、育児・家事に費やす時間が世界的に少ないと批判されるが、これも大きな原因は残業文化にある。残業をなくせば、男女がともに働いて一緒に家庭を育むことができ、男女格差も縮まるだろう。
残業の縮小にも企業は断固反対するだろう。だが、少子化というお国の一大事に意識を高めてもらいたいものだ。
第三に、フレキシブルな働き方の普及だ。属性を問わず社員がリモートやハイブリッドを選べるようにしてはどうか。いま、日本でリモート制度(フルとハイブリッド)を採用しているのは、全体の51%(2022)だそうだが、これをアメリカレベルの約80%に引き上げる。ハンガリーの統計は不明だが、筆者が現地で取材したデスクワーク職のすべてがハイブリッドで仕事をしていた。
しばしば日本のXには、「子持ち様のせいで残業するはめに」「子持ち様がまた早退」「子持ち様が急に休む」といった投稿が吹き荒れている。しかし、リモートワークが当たり前になり、ハンガリーのように残業がほぼ禁止されている労働環境なら、子どものいない層から「不公平だ! ずるい!」といった声は起きないだろう。