良質な食材は「豊かな水資源」があってこそ
では、「水」というリソースを活用するビジネスとして、どんなものが考えられるだろうか。
まず、インバウンド観光だろう。
私はコロナ流行期の2年間、日本全国を旅した。そこで改めて日本という国に古くからある自然の豊かさに気づかされた。
外国人観光客も、おそらく、そういう日本の一面に気づきはじめている。というのも、東京や奈良・京都など定番の観光地だけでなく、山間部にも外国人観光客が多く訪れるようになっているのだ。
のどかな農村風景に、それこそ豊かな水資源など、日本人にとっては当たり前すぎてありがたみを感じづらいものに、彼らは日本にしかない特別な魅力を感じているのだろう。
また、日本の食文化や外食産業においても「水」は欠かせない。
フルーツしかり、米しかり、日本の良質な食材は、ほぼ例外なく、豊かな水資源があってこそ生産できるものだ。
私が「WAGYUMAFIA」で使っている和牛もそうだ。牛を健やかに育て、美味い肉を得るには、水に恵まれていることが最低条件である。
つまり、日本産の食材を対外的にアピールすることは、まわりまわって、豊かな水資源という日本ならではのアドバンテージを活用していることになる、と言ってもいいだろう。
TSMCが「熊本の水」に目をつけたワケ
さらには、こんなニュースも記憶に新しい。
2021年11月、台湾の大手半導体メーカー・TSMCが熊本に生産拠点を作ることを発表した。
その理由というのが「熊本の豊かな水資源」なのだ。半導体の製造には純度の高い水が大量に必要である。台湾が歴史的な水不足にあえぐなか、TSMCは節水、水の再利用技術の向上などさまざまなことを試みてきたが、このほど新たな生産拠点を熊本に求めたわけだ。
実は「熊本の水」に目をつけたのは、TSMCが最初ではない。
2003年には、ソニーが地元農家や環境NPOなどと協力して、地下水涵養(地表の水を地下に浸透させ、帯水層に水が供給されるようにすること)事業を開始しているのだ。ソニーの半導体工場は、製造に必要な大量の水を確保するために、1990年代後半から地下水涵養地域に進出していた。
熊本の水インフラは、もとは江戸時代に加藤清正が、熊本の白川中流域に井堰を築いて水田を整備したことに始まり、今に至っているものだという。これこそ日本の伝統的な豊かさが経済効果を生んだ例と言っていいだろう。