ライバル店を観察するより、「自らが現場に赴き、自分の店を厳しくチェックする」が私の考え方です。では、どこを見ればいいのか。商品よりも接客をチェックします。それは接客ができていない店はたいてい、売り上げが落ちるからです。私が会長をやっていた時代、800店まで出店しました。そのうち、閉めたのはわずか2店です。どんな店でも、トップが現場に赴き、厳しい目でチェックすれば持ち直すと思います。

では、当時の私は、接客のどこを見ていたかですが、まずは働いているスタッフの数でした。私は「ゆとりシフト」を組め、と指導していたのです。お客さまが店に入ってきた、その瞬間に、いらっしゃいませと言えないような従業員の配置ではダメだからです。値下げをしたり、こだわりの味を出すよりも、飲食店は基本的なサービスをきちんと守らなくてはならない。

次にチェックするのが提供時間です。注文してから、カレーがお客さまに届くまでの時間を私はストップウオッチで計測します。揚げものがつかないカレーの場合は再加熱の時間も含めて速やかに提供するようにしています。そうした店のチェックのとき、店長がほかのお客さまよりも、私に先にカレーを持ってきたことがあります。私は厳しく怒りました。お客さまが第一。私に気を使ったりするような、間違った判断は許しません。

また、うちでは、時間のかかるカツカレーを注文した方がいらいらしているようなそぶりをしたら、その方に代わって、従業員が厨房に、「カウンターの方のカツカレーはまだですか?」と聞くようにしています。そうすれば、待っている方は、「ああ、自分のことを忘れていないんだな」と思える。

サービスとはお客さまの身になって、洞察力を働かすことです。大声で「らっしゃい!」とか「ありがとございまーす」とか声を張り上げることじゃない。うちは町の食堂ですから、会釈でいいし、あいさつに大声はいりません。大声よりも、心をこめて、ありがとうと言うことです。

自店を見ていると、きりがない。あるとき、静岡にあるチェーンをすべて見て、山梨へ行き、そこから八王子、そして、都内の24時間営業店全店をまわったことがある。36時間、ぶっ通しでまわったこともあります。

お客さまの気持ち、感情がつかめれば、それに対応したサービスができます。私の場合は毎日必ず、アンケート葉書をじっくりと読んでいました。今では1カ月に6万から7万通のアンケート葉書が届きます。私が会長だった7年半前は3万通でしたが、それにはすべて目を通していました。内容は10対1くらいで、お褒めの言葉が多いのですが、店にとって価値があるのはお叱りの葉書です。「従業員に無視された」「注文を取りにくるのが遅かった」「従業員が私語ばかりしていた」「カレーの温度がぬるい」……。

私は苦情の葉書はコピーして、余白に「至急、善処して下さい」と書きこんでから、苦情のあった店にFAXしました。クレームに対して素早く真心で対応すれば、大抵はお客さまは許してくださるでしょう。しかし、放っておいたら、お客さまは二度と来ません。そして、クレームというのは、実はその店に限ったことではなく、どこの店でも起こりうることなんです。ですから、私は苦情の内容をまとめて、全店に配りました。これは今も続けていることです。