「ありふれ」に違う光を当て、育ててみよう

日常の中にある、つまらない、取るに足りない類の商品に違う角度から光を当て、生き返らせてみよう。たとえば、ハンバーガー。この世の中、どうしてこうもひどいハンバーガーがはびこっているんだろう。

適切なレシピと、新鮮なフライドオニオンがあれば、行列のできるハンバーガーショップを作るなんてわけないはずだ。言い換えると、商品にまとわりついている余分なものを削ぎ落として、「本質」を浮き彫りにするのである。

1970年代半ばのことだ。ラッツアリ・フューエル社(サンフランシスコ)のコンサルティングをした。同社はメスキート炭(メスキートと呼ばれる木材から作られる一種の木炭)の市場拡大に奮闘するも、芳しい成果は得ていなかった。燃料として販売していたのだ。

しかし、メスキート炭は、ただの燃料以上のものだ。1700度まで加熱できる。通常のチャーコール・ブリケット(成形された炭)なら700度だ。だから時間をかけず一気に肉を焼ける。風味を損なわず、かつ、メスキート独特の香りを加えることができる。

そこでぼくはラッツアリ社に、パッケージを変えることで、ありふれたほかの燃料と差別化することをアドバイスした。メスキート炭を、燃料ではなく、調味料として売る。

ラッツアリ社はメスキート炭を調味料として販売した第一号になった。大繁盛した。

韓国系移民たちがニューヨークでやったのは、ビルのコーナーの八百屋を引き継ぐことだった。既存店のオーナーたちはやる気を失ってしまっていた。韓国人たちは新鮮で魅力的なディスプレイにし、品質が良く、お手頃価格で提供する店へと模様替えした。

スミス&ホーケンはどうか。創業期に扱っていた商品はいずれもあまりにありふれたもので、ほかの会社(卸やメーカー)は無視するか、まじめに考えていないものばかりだった。

手で使う道具は死んだ、あるいはほとんど成長の見込みのない市場だ。熊手や鍬、スコップはあまりにも平凡で、誰の興味も惹かない。そこでぼくたちは、それらの道具の形、重さ、デザイン、使い方についての説明から始めた。

カタログに道具の由来(いかにして、誰によって発明されたのか)を掲載した。スチール(鋼)製の熊手や鍬は輸入元の英国で発明されたものだから簡単だった。

魅力的で面白い情報を提供することができたら、自分たちの売っている道具とほかとの違いや素晴らしさがきっとわかってもらえる。そう信じていた。

OKラインを引き上げろ

競合を意識する必要はない。商品やビジネスの仕組みを念入りに観察する。競合ではなくあくまで顧客の視点から、「この点は改善できる」と思うリストをすべて書き出してみよう。

この実行の積み重ねによって、毎年ビジネスのOKラインのバーを引き上げることが可能になる。

あなたはOKラインを上げる人になるべきであって、後から追いかける人になってはいけない。競合の後追いをビジネスの出発点にすると、努力のすべてが競合のすることへ集中することになる。

わが道を行く戦略はこうだ。一つの指標(ザ・スタンダード)を設定し、未来を見据える。そして創造のエネルギーすべてを新たな成長に投入する。

毎日の生活の中で、OKラインが引き上げられた事例はいくらでも見つけることができる。たとえばレストラン。いまどきの食事は新鮮でなければならない。冷凍ものでも、電子レンジでチンでも、調理済みのものでも、ダメだ。

通信販売の世界で、フリーダイヤルの電話番号のない店はない。ドミノ・ピザが宅配を始めたことでOKラインを上げた。おかげでピザ屋はみな、宅配することが当たり前になった。

宅配ピザの香りを嗅ぐ女性
写真=iStock.com/vadimguzhva
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スミス&ホーケンでは保証制度OKラインを上げた。うちの商品は、従来品と比較して価格が20~30パーセント高い。しかし、既存商品がすぐ壊れてしまうことを思えば、長持ちするので、コストというより投資といえる。

手作業の道具は、これまでの業界常識では、使い捨てが当たり前だった。もちろん、製品保証などない。スミス&ホーケンは無期限の保証をした。無条件保証をし続けた結果、ぼくたちは最も低コストの提供者となった。

また、ぼくたちはサービス面でもOKラインを引き上げた。ほかのカタログ業者たちだけではなく地元金物店も競合だとわかっていたので、できる限りのサービスを心がけた。

注文はすべて24時間以内に発送した。顧客の玄関まで届けたし、不良品が出た場合も、同じく玄関まで取りにうかがった。