お客が「儲けた」と思えるか
牛丼店としてのこだわりを持ちながら、「牛めし・焼肉定食店」という名の通り、松屋は初めから定食店でもあった。吉野家が築地などの繁華街で人気を集めていた一方、松屋の1号店は住宅地に位置していた。吉野家は、繁華街で働く人々の「牛丼をサクッと食べたい」ニーズが大きかったが、住宅地にある松屋では、昼は学生がメイン、夜は社会人がメインで、より多様なニーズに応える必要があった。そのため、多様なニーズに応えるために牛丼だけでは不十分と考え、牛丼を柱としながらも、お客が喜ぶようにさまざまな定食メニューを増やしていった(※3)。
松屋では経営方針の1つに、「お客様は儲けさせてくれない店に用はない」を掲げている。これには、値段以上の価値のある食事を食べることで、お客に「儲けた」という満足感を味わってもらいたい、という思いが込められている(※4)。牛丼1本の場合に比べて、定食メニューが豊富になるほどコストは高まり、効率性は低下する。しかし、メニューが豊富な方が、より幅広いユーザーのニーズに応えることができて、利用してもらえるようになる。
松屋は、生姜焼き、焼肉、カレー、ハンバーグなど、メニューを少しずつ増やしていきながら、多店舗展開、生産工場や物流センターの拡充などを進めていき、豊富なメニューを松屋らしい価格で実現できるように、規模の経済性を発揮して良いモノを安く作れる体制を構築していった。
売上構成比を見ると「牛丼と定食の2本柱」
2013年に当時の社長、緑川源治氏はインタビューで松屋について、「あくまでも『牛めしと定食』という独自の業態です」と言い切っていた(※3)。実際に売上構成比において牛丼は4割弱にとどまり、牛丼と定食の2本柱が確立されている。モーニングの定食メニューを見てみると、牛皿、豚汁、焼鮭、ソーセージエッグなどが用意されているし、6月から7月にかけての期間限定メニューでは、回鍋肉定食、スタミナ豚バラ炒め定食・丼、カルビホルモン丼、うな丼など、ライバルの牛丼店にはない充実ぶりになっている。
2019年からは松屋フーズの他業態店舗である、とんかつ専門店「松のや」、カレー専門店「マイカリー食堂」などと松屋を組み合わせた「複合店」も出店し、さらなる多様なメニューの提供を進めている。