松屋の「シュクメルリ鍋定食」がヒット商品になったのはなぜか。高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「松屋は外の『良いモノ』を取り入れて独自の価値を作り出すのが上手い。それは創業後に『牛めし』を発売した経緯にも表れている」という――。

良いモノを上手く取り入れて独自性を出す

「松屋」と聞くと、当然、牛丼(松屋の商品名では「牛めし」)がまっさきに思い浮かぶかもしれないが、じつは松屋は、開店当初から牛丼1本の「牛丼店」として始まったわけではない。店舗数1953店のすき家、1236店の吉野家に次いで、牛丼店としては第3位の1045店を展開する松屋だが、牛丼店であると同時に「定食店」でもあり、そして「ファミリーレストラン(以下、ファミレス)」としての利用も進む、独自の飲食店となっている(店舗数はいずれも2024年6月時点)。

松屋は、他店や海外の食文化など、「外」の良いモノを上手く取り入れて、それをただまねるだけではなく、プラスαの独自性を生み出す商品開発力によって競争優位性を形成することにけた企業である。この強みは、もともと中華料理店として創業された松屋が、牛丼店に生まれ変わった一歩目から発揮されてきた。

「無料のみそ汁をセットで付ける」こだわり

松屋は、創業者の瓦葺利夫氏が1966年に練馬区羽沢に開店した中華料理店「松屋」から始まっており、当初はラーメン、餃子から親子丼、カツ丼までを提供していたという。それが、当時、「早い、うまい」と大評判になっていた吉野家の牛丼のあまりの美味しさに瓦葺氏がほれ込み、吉野家に通い詰めて牛丼を研究し、自身の店を「牛めし・焼肉定食店 松屋」と改めて1968年に新規開業した。現在も「松屋 江古田店」として営業されるこの店から、牛丼店としての松屋はスタートしたことになる(※1)

20年の間に30回以上もタレの味を更新しているという独自の牛めしの追求もさることながら、本家ともいえる吉野家との大きな違いは、みそ汁の提供にある。「食卓といえば、ごはんとみそ汁」という考えから、牛めしに無料のみそ汁をセットで付けることにこだわり続けている。そのこだわりの強さは、お盆に丼とみそ汁をのせた様子を上から描いた松屋ロゴマークにも表れている(※2)

「牛めし」
「牛めし」(画像=松屋フーズホールディングスプレスリリース