著作に対する率直な評価

現在、石丸が出している著作は二冊。『覚悟の論理』と『シン・日本列島改造論』である。特に『覚悟の~』の方は、商業出版のレベルに到達していない、というほど酷い内容だ。石丸が約4年、広島県安芸高田市市長として実行した業績などは概略しか書かれておらず、「なりたい自分や人生を達成するための方法」みたいなものが延々と書かれている。典型的な自己啓発本で、中身は何もない。

石丸は前掲書の中で、そうした目標を達成するためには、「戦略・作戦・戦術」の三つの要素が最も重要であり、このような考え方を、かわぐちかいじ氏の漫画『沈黙の艦隊』で学んだと豪語している。ふつう、一般的な教養があればここで引用するのはクラウゼヴィッツの『戦争論』なのではないかと思うがそれはさておき、私も漫画読みなので言わせてもらえば、『沈黙の艦隊』はそういう作品ではないような気がする。

一方、『シン・日本列島改造論』の方は直近6月に出版されたばかりで、石丸が東京都知事選挙への立候補決意を公表していることが前提のため、『覚悟の~』よりはさすがに筆が入っている印象がある。しかしこちらも結局は、総花的な天下国家論への記述があるばかりで、なぜいま東京都知事選挙に立候補する必要があったのか、という出馬動機のところはひどく曖昧なまま、逃げるようにして日本の将来への危機意識で終わる。

本すら読んでいない支持者たち

2冊の本は読む価値のない資源○ミだと私には映った(私は電子書籍で購入したので、その心配はない)のだが、これを読んで「石丸を支持する」という思考回路になる、いい歳をした30~50代の方が、よほど社会として問題なのではないか。

しかし驚くことに実際、石丸支持の多くはこの本すら読んでいない。その情報源は相変わらずユーチューブやティックトックからである。特に前者のユーチューブが多い。

タブレット端末でユーチューブを視聴する男性
写真=iStock.com/Prykhodov
※写真はイメージです

いい歳をした石丸支持者が私の周辺にはあまりおらず、具体的な事例を抽出するためにどうしようかと考えていた矢先、私は過去に知人だったA氏(以下A)のことを思い出した。

Aと私は、20代の時にSNS上で知り合って仲良くなった。彼は私より4個上ぐらいだったが、Aは会社を立ち上げたい(起業)というので何度かリアルで会った。

Aは数年前までバックパッカーで世界中を旅して日本に帰国した後、日本の停滞した現状に危機感を抱き、起業することで社会を変えたい、と熱っぽく語った。しかし具体的な知識や教養があるわけではなかった。衆議院と参議院の違いすら良く分かっていないようだった。世の中のことをまるで知らず、その知識水準は極めて低く浅はかだ。ただ情熱と話の面白さだけはあった。Aはそんな人だった。