弁証法を活用したケース

ある会社の商品企画部での会議のひと幕です。新商品開発のコンセプトを話しています。

【Dさん】
「今日は新商品開発のコンセプト案について検討を進めましょう。これまでに出てきているコンセプト案の中では、前回の会議でEさんから発案されたものの評価が一番高かったです。Eさん、振り返りがてら説明をお願いします」

【Eさん】
「はい、コンセプトは『最先端のテクノロジーと日常生活の融合』です。高速通信網とIoTデバイス、それにAIを組み合わせて日常生活のあらゆる不便を解決する商品を提案しました」

【Fさん】
「悪くないと思いますが、最先端のテクノロジーは子どもやお年寄りが扱えるのでしょうか? 特に国内では高齢化によってお年寄りの市場の重要度は増すばかりです。ここの需要を満たすものでなければ開発資金の回収は難しいのではないでしょうか?」

【Eさん】
「確かにおっしゃる通りですね。いくら最先端のテクノロジーを搭載していても、使える人が少なくては仕方ないですよね」

【Gさん】
「それならば、最先端のテクノロジーを搭載していても誰でも使えるようにUI/UXを工夫するのはどうでしょう? そうすれば、お年寄りや子どもはもちろんのこと、それ以外の機械オンチの方など、誰にとっても使いやすいものになるはずです」

このケースを弁証法の考え方でひも解いてみましょう。

テーゼ:最先端のテクノロジーと日常生活の融合
アンチテーゼ:最先端のテクノロジーを子どもやお年寄りが扱うのは難しいのではないか
ジンテーゼ:UI/UXを工夫することにより最先端のテクノロジーを誰でも使えるようにする

このように捉えることができます。

二項対立の発想から抜け出そう

Eさんからの話では、「最先端のテクノロジーを日常生活で活用する」という話がありましたが、それに対してFさんから、「最先端のテクノロジーは子どもやお年寄りが扱いづらいのではないか」という反対意見が出されました。

相原秀哉『結果を出す組織は、どんな会議をしているのか?』(フォレスト出版)
相原秀哉『結果を出す組織は、どんな会議をしているのか?』(フォレスト出版)

もし、ここで議論を単純な対立構造として捉えてしまえば、「お年寄りや子どもの市場を諦めて最先端のテクノロジーを活用する」か「お年寄りや子どもの市場を優先して最先端のテクノロジーの導入を諦める」のどちらを採用するか、という議論になっていたはずです。

しかし、Eさんの話とFさんの話を単なる対立構造として捉えるのではなく、そこから「UI/UXを工夫することで最先端のテクノロジーを誰でも使えるようにし、重要な市場をカバーする」という、より優れたアイデアをGさんが出しています。これが弁証法の威力です。

会議で反対意見が出たときには、議論を単純な二項対立にするのではなく、「弁証法を用いることでより高度な議論へと導くことができるのではないか」という可能性を探るようにしましょう。

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