警察情報を鵜呑みにする

実際に私がドキュメンタリーの取材をおこなっているときに、「これはもっと突っ込んで確認したい」と思っても、相手に「失礼になる」ことを恐れてあきらめたことがあった。被取材者が「こうだ」と言えばそれを信じざるを得ない状況もあった。

もちろん、メディアとして情報の裏取りをしなければならないので、できるときにはそういった努力も惜しまないが、どうしても当事者や被取材者、また情報提供者にしかわからないこともある。裏取りができない場合には、「放送を断念するか」もしくは「相手の言うことを信じるか」しかない。

今回の「警察密着モノ」の場合には、犯罪や逮捕、検挙などといった大変ナーバスな内容を扱うため裏取りがしにくいという特性もある。そんなときに、「つい相手の言うことだけを鵜呑みにしてしまう」ことはあり得ない話ではない。

だが、警察の「宣伝」一辺倒の番組を作り続けることは、「権力監視」の役割を持つメディアとしていかがなものだろうか。テレビは、権力の監視を放棄し、警察のプロパガンダを垂れ流す装置に成り下がったのか。もちろん、「警察密着モノ」が警察の不祥事をネタとして取り上げることはあり得ない。警察の威信を落とすような内容や「お蔵入り」の事件の深掘りもご法度である。

制作会社に丸投げする「外注番組」

今回の事件には、もっと大きな問題が隠されている。テレビ局の「人事構造」の欠陥である。

テレビ局員は人数が限られている。また、昨今は働き方改革の影響で労務管理も厳しく問われるようになってきた。警察官への密着は撮影に多くの時間を要し、テレビ局員には担当させられない。現在放送されている「警察密着モノ」は、日本テレビ系は「悪い奴らは許さない‼警察魂」、テレビ朝日系は「列島警察捜査網 THE追跡」、TBS系は「最前線!密着警察24時」、フジテレビ系は「逮捕の瞬間!密着24時」などがあるが、いずれも下請けの制作会社によって作られている「外注番組」である。

制作会社はギリギリの制作費や人繰りで番組作りをおこなっている。制作者は「テレビが好きだから」「映像制作が楽しい」という理由で、過酷な条件でも撮影し、番組を完成させる。

制作会社にとって、番組が続くか終わるかは死活問題だ。レギュラー番組ではないにせよ、「特番(特別番組)」は売り上げが立つ貴重な収入源になる。特に今回の「激録・警察密着24時‼」は20年近く続く長寿番組である。打ち切りとなればその制作会社のイメージも悪くなる。

ビデオカメラで撮影をするカメラマン
写真=iStock.com/okugawa
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視聴率を取るための仕掛け

番組の終了・存続の判断基準は、一にも視聴率、二にも視聴率である。

しかも、「警察密着モノ」はなかなかインターネットの配信には回せない。その場限りの勢いで放送するにはいいが、裏取りもしっかりとおこなわれていない番組がインターネット上にいつまでも残っているのは都合が悪いからだ。だから、なおさら地上波における視聴率だけが終了・存続のバロメーターになるのである。