こんな「おいしいコンテンツ」はない
「勧善懲悪」を絵にかいたような番組で、警察が悪人を捕まえてくれるのでスカッとする。最新の犯罪手口を紹介することで、視聴者の不安感をあおることもできる。それで視聴率が獲れるのだからこんな「おいしいコンテンツ」はない。
しかも、取材対象は警察なので出演料や謝礼は不要だ。ギャラが高いタレントを出演させる必要もない。いや、かえってタレントがいないほうがリアリティを担保できる。これが③の「警察におんぶにだっこができる」を挙げた所以である。
ドキュメンタリーの撮影や番組制作の段取りで手間がかかるのが、出演者や取材対象者の交渉である。時間や内容の調整はもちろんのこと、コミュニケーションがうまくとれない場合には、もめごとに発展する場合もある。しかし、相手が警察だとそんな心配はない。
一方、警察側はPRになるから積極的に協力してくれる。不祥事が起こってもそれを帳消しにできるほどのイメージアップがはかれるからだ。現に、「警察密着モノ」は警察の不祥事が報じられた後のタイミングで放送されることが多いと囁かれるほどだ。
もうひとつの取材対象である「犯罪者」や「悪人」は、警察が捕まえたり取り調べをしたりする様子を撮影するなかで映るものなので、警察側が「OK」と言えば、局は「問題ない」と判断する。すべて「警察のせい」と押しつけることができるのだ。
テレビ局が重宝する警察の「後ろ盾」
今回の事件の「闇」もそこにある。私は、「警察密着モノ」を制作したことがあるクリエイターに取材をした。彼ははっきりとこう言った。
「警察が言ったことをいちいち裏取りしたり、調べたりしませんよ。だって、警察が言ってるんだから間違いないでしょう。もし、間違っていても『われわれは警察からそう聞いた』と言えるじゃないですか」
そしてそのコメントを実名で紹介していいかと尋ねた私に彼は言った。「いや、絶対に身分を明かさないでほしい。そうでないとこの業界で生きていけないから」。その言葉が、この番組の「闇」を表している。
ニュースはその公共性や公益性、視聴者の「知る権利」を尊重して、逮捕や検挙などの通常は撮影が許されていない瞬間の映像を放送することができる。だが、「警察密着モノ」はニュースではない。であるにもかかわらず、ニュースと同じようにそれらの映像を堂々と流すことができるのはどうしてなのか。
それは、「警察」という「後ろ盾」があるからだ。
おそらく逮捕された4人中3人が不起訴になった件も、制作者側による裏取りや確認作業はおこなってない。警察が犯人と認定して逮捕した人間が「本当に罪を犯しているのか」と勘繰ることは、警察を信用していない、疑っていることになる。そんなことをすれば、長年築いてきた人間関係にヒビ入る。
ましてや「警察」は取材対象だ。私たち取材者側には取材対象である「被取材者」に対して「遠慮」や「忖度」をしてしまう習慣がある。これは「業界の不文律」と言ってもいいだろう。