内容を制限すれば解決とはならない

2023年4月の東京都大田区議会選挙では、候補者が選挙ポスターに「妻に子供を連れ去られた」などと記載したことが裁判で争われ、「選挙活動に名を借りて、自らの不満を晴らすために制度を悪用した」として名誉棄損で有罪判決が下っています。

また今回の「ほぼ全裸女性ポスター」については、警視庁が公共の場所での卑わいな言動などを禁じる東京都の迷惑防止条例第5条三項に違反するとして候補者に警告を行い、候補者が自主的に掲示を止めることになりました。

本来、この条例は公の場での「卑わいな言動」を取り締まるためのものですから、選挙ポスターのような掲示物に適用されるものなのかどうかは疑問もあります。むしろ、東京都青少年育成条例十四条の有害広告として扱う方がまだ条文としては適合するのではないでしょうか。

一方で、ポスターの内容を制限しすぎれば不当な規制となり、特定の政治思想が弾圧される危険は当然あります。また、「性的ポスター」に関しても、「どの程度のものを卑わいなものとみなすのか」で論争になるでしょう。

性的な魅力をアピールすることで支持を得たい候補者もいる可能性があり、その場合、候補者の写真が「性的である」とみなされ、規制されてしまうことにもなりかねないのです。

どうすれば「問題ポスター」を規制できるのか

ではどうすればいいのか。本来の目的を逸脱する行為に規制をかけるとすれば、迷惑防止条例などではなく公職選挙法で規制すべきであり、しかも「性的かどうか」といった曖昧な観点からではなく、より中立的・客観的な基準から掲示場の設置の目的に反する「問題ポスター」を防止できるような方向で行うべきでしょう。

選挙ポスターは公営の掲示場に貼り出すものです。そうである以上、大前提となっている「公職を目指す候補者の情報を、通行する有権者に知らせる」という掲示場の設置の本来の目的に反するものであっても「何でもあり」で掲示可能だとするのは無理があります。

たとえば、掲示場の設置の目的に合致するように候補者本人の名前や顔写真の大きさを一定以上にする規定を設けるようにすれば、目的から逸脱したような無関係な情報を掲載する余地を少なくするとともに、今回の「ほぼ全裸ポスター」のように候補者自身ではない別の女性の写真を大きく表示することを難しくさせることができるでしょう。

ポスターの大きさや枚数、掲示場所は公職選挙法143・144条で決められていますから、ここにさらに「候補者の氏名・顔写真の大きさ」に関する条件を加えることは現実的に可能な対応です。

候補者の名前や顔写真を一定のサイズにする、というこの手法自体も、表現の自由を制限するものではありますが、公費をかけて掲示場を提供する以上、その目的に合致する内容で一定の制限をかけることに問題はないのではないでしょうか。