何回でも言い続け、かまい続けよ
ある製薬メーカーの実例です。自信満々、新薬開発部門を希望していた高学歴の新人女性。新入社員全員が最初は営業に回ると知って、完全にふて腐れていました。
新人研修の最終日、打ち上げのカラオケ大会。人事部長からトップバッターに指名されたのが彼女でした。「私、歌えません」と言った途端、「おまえ、お客様に言われてもそう断るのか!」と皆の目の前で怒鳴りつけたのが、普段は温厚そのものの人事部長でした。
「言われた瞬間、天狗の鼻が根元からポロッと取れるのを感じました。あれがあったから今の私がある」と、現在は管理職に就いている女性本人から聞きました。人事部長は、拒否されるのを見越してわざと指名し、叱ったのでしょう。
大切なのは、入社して早い時期、なるべく大勢が見ている前で叱ること。こういう人は負けず嫌いだから、ポキリと折れる心配は少ない。割のいい賭けです。普段、嫌な思いをしている周囲の人たちも納得するはずです。個室で叱るのは、証人がいないからハラスメントの問題になりかねません。
ただ、実際に職場で注意する際は、言い方には気をつけてください。見ている人が不快に感じたら、ハラスメントになってしまう。例えば、「あなたは○○だ」と“you” が主語だと反発を招くが、「僕から見ると○○に感じる」と“I”を主語にして伝えれば、ソフトな表現になります。
信頼関係があるお客様に事情を話して、代わりにガツンと言ってもらう手もあります。「上から目線」の人は客観性に欠けるだけに、第三者に注意してもらうのは非常に効果的。ハラスメントの問題も生じません。
多くの場合、1回、2回の注意では改善しません。「ウザイ」などと反発されることもあるでしょう。が、言葉=本心とは限らない。かまわれることを喜んでいるかもしれません。諦めたら容認されたと思われてしまうし、周囲にも示しがつきません。何回でも言い続け、かまい続けるべきです。私が見る限り、上が指導し続ければ、8~9割は普通の社員になっていますよ。
1968年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。経営者等を対象としたコーチングのほか、大手企業幹部社員の社員研修・コンサルティングを実施。著書に『「依存する人」を「変化を起こす人」にどう育てるか』ほか多数。