他部署との議論で主導権を握る

【TECHNIQUE】キーパーソンに得をさせよ

「他部署」というキャラクターは存在しません。まず部署を動かしているキーパーソンを見極める必要があります。

必ずしも部長がキーパーソンとは限らない。部長が必ず意見を聞く部下がいれば、その部下がキーパーソンです。接待はキーパーソンにしないと意味がないのと同じで、他部署との議論もキーパーソンとしないと意味がありません。

誰がキーパーソンか探る第一歩は身近なところからの聞き込みです。庶務や秘書のネットワークではその手の情報が飛び交っています。会議のお茶出しなどで部署の状況を掴んでいるからです。

次にキーパーソンが位置づけている部署の方向性を探ります。直接聞き出せなければ、違う部署から情報を得ましょう。相手部署の方向性がわかったら、こちらのやりたい方向性に引き寄せるのではなく両方の方向性を生かすことを考えます。

主導権を取るとは無理にこちらの方向性に引き寄せることではありません。相手が自分の得になるから一生懸命動こうと思うように環境を整えることです。結果としてこちらの希望が叶うのですから主導権を取ったことと同じです。

相手が得する事項を提示する際、こちらの価値観で「得」らしきことを提示しても相手には得と映らないかもしれません。相手の世界観と言語で、いかに得で意味あることかを語ることが重要です。

相手の世界観に合わせるということは、うまいプレゼンテーションの秘訣と同じ。プレゼンテーションとは自分の主張を伝えるものと考えがちです。しかし本当にうまいプレゼンテーションとは相手の頭の中に自然にイメージをつくることです。

私が校長をしていたとき校長室の開放や校庭の緑化を実施しました。これまでは行われておらず先生たちは当初消極的でした。そこで先生たちの世界観で“得”と考えられるように提案しました。先生たちの世界観で最も大切なことは子供たちが喜ぶこと。校長室の開放や校庭の緑化が、いかに子供たちを喜ばせるかをイメージしてもらったところ、すすんで協力してくれるようになりました。自分の主張を繰り返すのではなく相手の世界観に沿って、いかにメリットがあるかを自ら納得してもらうことが重要です。

相手の世界観に沿って得を提示することは相手方のキーパーソンも他のメンバーに説明しやすいという効用もあります。

組織の中でのあり方をキーパーソンに意識させることも大切です。例えば社長の年頭挨拶とリンクさせて「これ(依頼したいこと)も社長が重視していることですから、評価されると思いますよ」と語れば反応はよくなるはずです。

キーパーソンを探り、相手の世界観に合わせて話を進める、これが主導権を握るための考え方と言えるでしょう。

藤原和博
1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。東京営業統括部長などを経て、同社フェロー。2003年杉並区立和田中学校校長に就任。08~11年、大阪府知事特別顧問。近著に『さびない生き方』など。
(構成=斎藤栄一郎 撮影=石橋素幸)
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