新札の顔、渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎はどのような人物だったか。作家で歴史家の井沢元彦さんは「この人たちの歴史的業績は一般の日本人にとってはあまり馴染みがないように思える。新紙幣発行を機に、功績が見直されていることを期待している」という――。
新円紙幣の見本
写真=picturedesk.com/時事通信フォト
日本銀行金融研究所貨幣博物館内に展示されている新円紙幣。新紙幣の流通開始は2024年7月3日。20年ぶりのデザイン変更となる。(=2024年5月27日、東京)

「もう新紙幣など必要ない」が世界の常識

20年ぶりとなる新たな紙幣が発行されました。

中国あたりからは、なぜ日本はこの期に及んで新紙幣など発行するのかという声も聞こえてきます。というのは、これだけキャッシュレスが進んだ時代に、もう新紙幣など必要ないというのが世界の常識なのです。紙幣自体が発行部数を減らされ、最終的には消滅するのは時代の趨勢ですから。

そもそも新紙幣をなぜ発行するかといえば、主な目的は偽札防止のためです。もちろんインフレや経済事情の悪化などで高額紙幣を発行しなければいけない場合もありますが、日本は幸いにもそうした危機はうまく乗り越えてきました。ただ、紙幣は金貨銀貨などのコインと違って印刷物なので原価が非常に安く、それゆえに偽札をうまく作れれば大儲けができる。ですから、昔から贋金にせがねづくりというのは知能犯罪の代表的なものでした。

ところで紙幣というと、まさにその「顔」である肖像が思い浮かびますよね。なぜ紙幣には肖像がつきものなのか考えたことはありますか? 紙幣以前に使われていたコインにちなんだのではないかと思った方は、国際情勢通でもあり歴史に詳しい方ですね。確かに皇帝や国王の横顔をデザインした金貨銀貨はローマの昔からあります。しかしそれは西洋の話です。中国はあまり金が産出しない国で、昔から金貨はなく、代表的なコインである銅銭には漢字が刻まれていました。日本もその伝統を受け継いで、中国と違って世界最大級の金の産出国でもあった時代もあるのに、コインの肖像に天皇や将軍の横顔を使った例は一つもありません。とにかく、肖像を硬貨も含めたお金に使うという伝統は日本にはなかったのです。