「顔」なら贋物だと識別できる

ところが明治維新の後、日本はコインに龍や菊といったデザインを用いたにもかかわらす、紙幣には肖像を使うようになりました。一体なぜでしょう。コインと違って紙幣は印刷物ですから贋物が作りやすい。では贋物防止の為にデザインを複雑にすれば良いかというと、決してそうではないのです。たとえばウロコがたくさんある龍の絵は確かに複雑ですが、贋物が作られると人間の目にはその違いがよくわからないのですね。今でも間違い探しというパズルがありますが、人間の目はそれほど識別力が高くはないのです。

しかし肖像だけは違います。人間の顔はあれだけ複雑な情報でありながら、ちょっとでも本物と違うとすぐに贋物だと識別できるのです。これは脳の特性の問題なのですが、それに着目した人類は昔から紙幣に多く肖像を使ってきました。日本が天皇の横顔を使ったコインなどを作らなかったのは、そんな卑しいものに神聖な天皇の顔を使うのは畏れ多いという感覚があったからです。しかし、欧米先進国並みに紙幣を発行しようと日本が考えたとき、そうも言っていられないので肖像を使うようになりました。

新紙幣発発行でキャッシュレスが加速する

それにしてもなぜ、21世紀にもなって新紙幣発行に踏み切ったのかといえば、長年培ってきた偽造防止のための印刷テクニックを継承発展させなければならない、と国が考えたのではないかと思います。

それがこのキャッシュレス時代に、あえて新紙幣発行に踏み切った理由でしょう。ただし、このことが逆にキャッシュレスを推進する可能性もあります。というのは、これまでキャッシュレスを拒否し紙幣を使ってきた店舗は、新紙幣に合わせて食券や駐車料金の券売機を変更しなければなりません。これは結構費用がかかるんですね。

駐車場の自動精算機を操作するビジネスマン
写真=iStock.com/ablokhin
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確かにそうしたものを生産しているメーカーは利益になるでしょうが、そんなことに費用をかけるならば、いっそのことキャッシュレスの端末にした方がいいと考える人々も出てくるでしょう。ひょっとしたら国はそこまで考えて、あえて新紙幣発行に踏み切ったのかもしれません。これはちょっと深読みかもしれませんが。