言葉がていねいすぎて、内容が頭に入ってこないとクレームが
それでも、スーツケースに入れた着替えがないので同じ服を着続けないとならないなど、やり場のない怒りを、目の前の添乗員にぶつける人もまれにいる。
「そこで『私の責任ではないです』と返すのではなく、『そうですよね、本当に困りますよねえ。お荷物の状況は常にお知らせしますよ』とあくまでお客様の立場に寄り添うことが大事です」と、森さんは言う。
いつでも参加者の立場に寄り添う、これは添乗員にとってもっとも大切なことの一つだと力説する。
「それが添乗員になりたての頃、私に足りなかったものです。例えば、バスの車内などでマイクを握って行程や注意事項を説明します。が、CA時代のクセで、どうしてもていねいすぎる言葉遣いになってしまったんです」
それのどこがいけないのか? と思う。しかし、旅行終了後のアンケートで参加者から悪い評価をもらい意思消沈したそう。次の添乗までに気持ちの切り替えができないことが続いた。
「そこに書いてあったのは『あなたの説明は、何をどうしてほしいのかわかりづらかった。もっとシンプルに伝えるべき』みたいなニュアンスでした。特に敬語や謙譲語に慣れてない若い世代の方からそんなお声が届きました」
もちろん森さんは尊敬語や謙譲語は相手を思って使っているが、若い参加者にはどうにも回りくどく感じたのだろう。CA時代はシートベルトを締めろなどの定型文が多く、参加者も聞き流すこともあるが、添乗員はいろんなケースで重要な説明をしなければならない。
たとえば「翌朝は早い出発とさせていただきますので、ホテルのレストランで朝食を召し上がっていただくことがおできになりません。そのため、小さなお弁当をホテル側でご用意いたしました。それをみなさまにお配りさせていただきますので、恐れ入りますが電車内でお召し上がりください」といった説明。
誇張した例だが、よくよく聞けば理解できる。しかし夜遅いホテル到着や長い旅路で疲れている場合は頭の中が混乱する。“いったい、朝食は食べられるのか? 食べられないのか? どっちだ?”と、参加者はイラッとなるわけだ。
ならば「明日は早朝出発なので、朝食にお弁当を配ります」でいい。
CA時代に長い間使っていた「お化粧室」も、「トイレ」か「お手洗い」でいい。
「ほかにも、融通が利かないといった、仕事のやり方に対する不満も書いてありました。曲がりなりにも接客のプロとして長年携わってきたのに、プライドは粉々ですよね」