子育て支援しかしないと、むしろ少子化が加速する
そのインフレを発生させてしまった原因のひとつに、国の少子化対策があります。
岸田内閣の「異次元の少子化対策」の的外れ感については何度か書いていますが(〈岸田政権の「子育て支援金」は、むしろ「婚姻撲滅・少子化促進」という結果をもたらす最悪の政策である〉参照)、これに限らず、国の少子化対策は2007年に少子化担当大臣を設置したそのスタートから一貫して子育て支援一辺倒で、これでは出生増にも婚姻増にもつながりません。
もちろん、子育て支援を否定するものではありません。それはそれで、少子化であろうとなかろうと実施すべきです。しかし、重要なのは「子育て支援しかしないと、むしろ少子化は加速してしまう」ということを認識することです。
前掲した図表2の通り、少子化担当大臣設置前までは、婚姻数は所得の多寡に応じて連動していましたし、その所得も300万円台という若者にとって中央値の年収帯でほぼ結婚できていました。
その後、結婚可能年収のインフレを起こしてしまったのは、すでに結婚した夫婦に対する児童手当などの金銭支援を行うことで、「結婚や子育てには金がかかる」という呪いをかけてしまったことによります。子ども一人を育て上げるのに何千万円かかるなどというニュース報道もそれに拍車をかけました。
東京のタワマン住み夫婦だけが子どもを持てる時代に
当の子育て世帯にしても、そんなコストの話ばかりされたら、多少の手当を支給されたからといって「もう一人産もう」とは思えなくなります。それどころか、今育てている子どもの教育の向上志向が高まり,それは習い事や塾など「子どもに対する必要コスト」を皮肉にも上昇させることになります。
結果、東京のタワマンを購入でき、子どもの教育コストも支払える経済力のある夫婦だけが第3子以上を生むようになる一方、そんなコストは到底無理だと思わされた中間層の未婚男性は、そもそも「結婚を諦める」という方向に舵を切ります。
元々「結婚したい」・「子どもがほしい」と思っていたとしても「最初からそんな気持ちはなかった」ものとして自分を納得させようとします。未婚女性も、相手の年収条件に固執し、婚活を頑張りますが、そのうち「望む相手はこの世にはいないのだな」と悟ることになります。当然です。年収500万円や600万円以上稼ぐ希少な若い未婚男性が婚活市場に流れてくるわけがありません。とっくに売約済みです。
児童手当拡充などの子育て支援だけでは少子化は解決しないどころかむしろ悪化するリスクがある、というのは何も私だけの見立てではありません。2008年の会計検査院の論文「子育て支援策の出生率に与える影響」においても予言されていたことで、実際その通りになりました。
貧困に苦しむ子どもたちは減りましたが、このままでは、やがて子どもたちそのものが消滅することになるでしょう。