1月半ばに本格スタートする今春闘で、65歳までの雇用義務付けに対応した賃金制度見直しが最大の争点に浮上しそうだ。春闘で常にメーンテーマだった賃金改善(ベースアップ)は、春闘相場のリード役だった自動車、電機などの主要産業別労働組合が昨年末までに統一要求を見送り、戦わずしてギブアップしたからだ。代わって主役に躍り出そうなのが、現役世代の賃金引き下げも視野に入る「65歳雇用時代」を見据えた賃金制度であり、労使ともに一線を譲れない問題だけに、例年にない厳しい春闘が予想される。

企業への65歳までの雇用義務付けは、厚生年金の支給開始年齢が65歳まで段階的に引き上げられ、その間に定年退職者が年金を受け取れない「空白期間」が生じるのを防ぐのが狙いだ。今年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業は希望者全員を再雇用しなければならなくなる。企業にとっては人件費の総額が膨らむことから、「2013年問題」として、その対応が迫られていた。

実際、NTTグループは今年10月、65歳までの継続雇用に合わせ、新たな賃金制度の導入に踏み切る。現役世代の賃金上昇を抑える一方で、60歳からの継続雇用者の賃金を引き上げる。NTTは「新制度が導入されても、社員が受け取る生涯賃金の水準は変わらない」とするものの、65歳雇用義務化のしわ寄せは、40~50代の「家庭の大黒柱」の実質賃下げとなってくるのが現実だ。

NTTの場合、社員数が多く、65歳定年への延長は人件費増加に直結しかねず、現役世代の賃金抑制という仕組みを選択した。歴史が長い重厚長大型の大企業には毎年数百人規模の定年退職者が出るケースも少なくなく、NTTと同様の賃金制度を導入する可能性は高い。

事実、春闘で経営側を代表する経団連は、春闘に臨む経営側の指針として1月下旬に公表する「経営労働政策委員会報告」に、65歳雇用時代を見据え、賃金カーブ全体の見直しが必要との判断を盛り込む。65歳までの雇用を維持しながら総額人件費を抑えるには、「定年前の賃金制度の改革が不可避」とし、現役世代の賃金水準を抑え込む方向を提示する。

NTTが新たに導入する賃金制度は、経団連による経労委報告の内容を先取りしており、この提言に倣って、働き盛りの現役世代に実質賃下げを迫る賃金制度の見直しが、今後、多くの企業で進む可能性がある。

しかし、こうした賃金制度の導入に当たっては、現役世代を含めた賃金カーブ全体を見直さなければならず、目前に迫った今春闘での定期昇給(定昇)をめぐる労使交渉にも大きな影響を及ぼす。さらに、「日本型」として定着してきた年功序列型の賃金体系に大ナタを振るうことにもつながりかねない。