日本では不安が煽られすぎている

しんどかったこともあると思いますが、フィリピンはラテンカルチャーが強い国です。あるときは「藤江さん、5Sがなかなか進まないので5Sミュージックアラートをやっていいか」と相談されました。毎週火・木の8時から30分間、ポップな音楽をガンガンかけながら、職場の整理・整頓・清掃を行いたいと。

OKを出すと「藤江さんもやってくださいね」。毎週2回ではすぐやることがなくなるのではと思いましたが、書類やPC内の整理等、意外とやることはたくさんありました。ミュージックアラートは現在も行われているようです。

最前線の従業員が明るく楽しく前向きに事業基盤の強化に取り組んでいったことで業績は改善。13年の春には従業員全員に一律10万円の臨時ボーナスを出しました。一律にしたのは、フィリピン人の取締役が「みんなで儲けたから、みんなで分けよう」と言ってくれたからです。

私がAPCにいた3年間で事業利益は25倍に伸び、V字回復を実現できました。当初、赤字で不安を感じなかったのかと聞かれることがありますが、もともと私はあまり不安を感じません。いろいろな学びがあって不安を感じなくなった、というのが正確でしょう。

日本では不安が煽られすぎている面もあると思います。その結果、みんなお金を使わなくなり、企業は値上げできず、失われた30年を招いてしまいました。中国やフィリピンを見ても、適度な値上げと賃金上昇、そして景気が好循環する社会のほうが絶対にいい。健全な値上げが可能になった現在は、失われた30年をブレイクスルーする大きなチャンスだと思います。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

(構成=宮内 健 撮影=大槻純一)
【関連記事】
"腐ったバナナ"で1億円が吹っ飛ぶ大失態…海運会社社長「会社に巨額損失与えた自分が社長になれた理由」
「給料を3倍に上げてほしい」名門カネボウ破綻で誕生したクラシエ社長が耳を傾ける社員のワガママの中身
獺祭は機械で造っているから嫌い…ホテル出向中にアンチ客と出会った蔵人が、自らの正体を隠し続けた理由
なぜ和歌山県で「1億円プレーヤー」の農家が増えているのか…東大教授が絶賛する「野田モデル」の画期的内容
モンスター客が怖くて手が震えた…ココイチの泣き虫アルバイト22歳が社長就任後もよく涙を流す別の理由