なぜワンコインなのか改めて考えさせる

APCにはお客様の台所にお邪魔して、家庭の中でどんな調理をしているか見学するホームビジットという仕組みがあります。私も実際に見に行くと、我々がメインとするお客様層の多くは人数が7〜8名の大家族で、コークス(石炭)や薪の火力を使い大鍋で料理を作るんです。野菜を炒め、最後に味の素を一袋投入して味を決める、という作り方をしていました。

ホームビジットの取り組みの様子
ホームビジットの取り組みの様子。現地の家庭を訪問することで、自社の課題を分析する。

しかし10年前から少しずつ内容量を減らしていたために、一袋ではうま味が足りず、いつの間にか競合の風味調味料を一緒に使う習慣ができてしまい、シェアを奪われていたことが判明したのです。ここでまた内容量を減らしてしまったら、うま味がますます弱くなり、さらにシェアを落とすことになりかねません。

スタッフには「もう一度、考えてみよう。なぜワンコインでなければいけないのか?」と伝えました。ワンコインを1袋で販売する伝統をつくった古関さんとは、私も過去に直接お話をしたことがありよくわかっていたのですが、絶対にワンコインにしなければならないということはありません。お客様が買い求めやすい価格にすることを重視しているだけで、この販売方式が始まった最初の頃は1ペソの半分の50センタボという時代もあった。そこから値上げをして1ペソになっていたわけです。

私が赴任していた当時も物価が上がっているという背景がありました。そして、買い物風景を見ると1ペソだけ持って味の素を1袋だけ買いに行く人はもういません。みんな10ペソ、20ペソは持って、他の食材と一緒に買い物をしています。ならばワンコインである必要はありません。

スタッフからの提案に驚かされた

それに、うまくいかなかったら元に戻せばいい。物事にはプラスの面とマイナスの面の両方があるもの。プラスの面が大きいと判断できるなら、やってみたほうがいい。会社の経営状況が良くないなら、新しい施策をしない理由はありません。

最終的にスタッフから上がってきた提案は「9グラム2ペソにしましょう」。これには驚かされました。私は従来の4.2グラムを2倍の8.4グラムにして2ペソにするというアイデアに落ち着くかなと考えていました。しかし、スタッフの提案は2倍以上入って値段は2倍。more than doubleをキャッチコピーにして売り出していく、というアイデアで、なかなかうまいと感心しました。

袋数が半減するのでは、との危惧も出されましたが、結果、歩留まりは約7割で、かつ包装費等のコスト削減や製造の効率性向上により、採算は大きく改善されました。

値上げと並行して、自分たちで職場環境を整備する5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動に取り組み始めました。APCは在庫がかなり多かったり、使っていないPCや社用車があったりしたので、倹約精神で丁寧にお金を使い、しっかり利益が出たら従業員の給与や教育機会に使っていこうと。

そこで人づくり・街づくりのために街を挙げて5S活動に取り組んでいる栃木県足利市に従業員を派遣して、5S研修を実施しました。フィリピン人にはなかなかビザが出ないのですが、会社の研修なら日本に行けます。

私の在任中に1回15人程度で全3回、足利市で5Sを学ばせていただきました。帰国した従業員は本当に楽しそうに「こんなことをやろう」「あんなことをしよう」といろいろな取り組みを進めていきました。