会社の状況が悪いと認識されていなかった

事業の立て直しは、すでに中国で経験がありました。中国に赴任した当時、現地の食品事業の赤字が売り上げの10倍に膨らんでいて、上司から私に与えられたミッションは「事業を続けるか、閉鎖するか決めてこい」だったのです。

そんな状況で従業員と話し合って作成したのが、味の素中国社の未来が天国のように良いものになるという意味の「味来天」計画でした。これはいわゆる会社の「ありたい姿」。きちんと儲けて中国の従業員や中国の明るい未来に貢献する、という内容でした。

ありたい姿をつくると「多少しんどくてもやってみよう」と考えるメンバーが増え、だんだん事業が良くなっていきました。そしていろいろな指標が良くなると、みんな仕事が面白くなり始め、ますます頑張るようになりました。

中国で新製品出荷に立ち会う藤江氏(左)
中国で新製品出荷に立ち会う藤江氏(左)。次に赴任したフィリピンで、問題に直面する。

最前線の従業員がやる気になり、明るく楽しく前向きに取り組むようになると、結果として業績も良くなる――。中国で身をもって学んだので、同じやり方をフィリピンでも踏襲しました。

まず始めたのは、会社の状況を従業員にわかりやすく説明することです。それまでAPCは「一般社員は数字を知らなくていい」という考え方だったので、これほど会社の状況が悪いとはあまり認識されていませんでした。「利益は毎月赤字で、借金がこれだけある。かつ売掛金の回収がこんなに滞っている」と示すと、みんなこのままではダメだとわかり、ではどうすればよいか、どうありたいのかと考えるようになり、売掛金の回収以外にもいろいろな課題に取り組み始めました。

度重なる減量で中身がスカスカに

その中で直面した課題の一つが「値上げ」です。

フィリピンでは「味の素」を小袋に詰め、ワンコインで販売する伝統がありました。歴史をたどると1950年代には1ポンド(約454グラム)で販売していた時代もありますが、それでは当時、日銭で暮らしている方が多かったフィリピンではなかなか買えません。

そこで、今はもう亡くなられてしまったのですが、当時フィリピンで販売責任者を務めていた古関さん(啓一・後、味の素専務取締役)が、小袋に分けて買い求めやすいワンコインで販売する販売方式を開始しました。味の素グループではフィリピンが初めてのことでした。この販売方式はその後、東南アジア、南米、アフリカと世界中に広がりました。

フィリピンの市場を訪問する藤江氏(中央)
フィリピンの市場を訪問する藤江氏(中央)。後方の店舗には袋詰めされた味の素も並ぶ。

私が着任する10年ほど前は1ペソで1袋10グラムという価格設定でしたが、原材料等の上昇で徐々に9グラム、8グラムと中身が減量されていき、着任時は4.2グラムに減っていました。

そんな状況で、スタッフから「またコストが上がったので3.8グラムに減量したい」と提案があったのです。が、これではもうスカスカです。