場づくりのヒントは『釣りバカ日誌』にあり

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職場では「作り笑いが多い」が3割

その人は、「職場では笑うべきではない」と考えているのかもしれない。職場での自分の役割を規定し、威厳のある人間として振る舞おうとする――。米国の社会学者アーヴィング・ゴッフマンは、こうした行動を「印象操作」と名付けている。言葉遣いや表情、服装、髪形などをコントロールすることで、自分に対する他者の印象を自分の望む方向に管理しようとする。そうだとすれば、その人を職場で笑わせることは難しい。だが職場から離れた場所であれば、可能性はあるだろう。

ゴッフマンは「ペルソナ(仮面)」という概念も唱えている。演劇で俳優が場面に応じて仮面を取り換えるように、私たちも職場や家庭といった場面に応じてペルソナを使い分けている。マンガ『釣りバカ日誌』を思い出してほしい。ハマちゃんとスーさんは、職場では平社員と社長だが、釣りでは師匠と弟子に変わる。スーさんは職場では厳しい顔をせざるをえないが、船上では相好を崩せる。

「怖い人」は、職場での相応しい役割を考え、それを演じようとする素直な人でもある。お笑い芸人は、テレビや劇場だから、笑いをとれる。職場で同じネタを披露しても、すべるだけだろう。他愛のない冗談を、皮肉や非難と解釈される恐れもある。「これは冗談です」という文脈を用意しておかなければ、藪蛇になる。空気を読むより、空気をつくることが大事だ。

とはいえ職場での笑いにはこだわらないほうが健全だ。常に和やかで、明るく、笑顔を絶やさないことが求められるとしたら、それは組織の雰囲気を維持するため、社員にコストを支払わせるということだ。無理に感情を合わせることを強いれば、潰れていく人もいる。感情を周囲に合わせられる姿を称揚する「感情管理社会」という風潮は問題だ。笑いを深刻に考えすぎないほうがいいだろう。

慶應義塾大学文学部教授 岡原正幸
1957年生まれ。80年慶應義塾大学経済学部卒業、87年同大学院社会学研究科博士課程修了。専門は感情社会学。著書に『ホモ・アフェクトス』、共著に『感情の社会学』『生の技法』、訳書に『地位と羞恥』(S・ネッケル著)がある。
(構成=大山貴弘 撮影=プレジデント編集部)
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