シアトルに本社を置くマイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツはそのメンタリティーが強烈だった。初めて会ったとき、ゲイツは「会社を設立してから19年間、ワシントンD.C.には一度も行ったことがない」と言っていた。会社が大きくなりすぎて反トラスト法で訴えられ、裁判のために仕方なくワシントンD.C.を訪れたが、それまで法律上の首都は眼中になかったのだ。

国境を越えて独自の発展を遂げているメガリージョンはほかにも数多くある。アジアでは、シンガポールがマレーシアのジョホールバル、そしてインドネシアのバタン島などとメガリージョンを構成している。シンガポールは国土が狭くて地価が高い。そこでホワイトカラーはジョホールバルに家を買ってシンガポールに通勤。工場はバタン島に建設して、シンガポールより安いがインドネシアより少し高い賃金でインドネシア人を雇う。かつてネーションステイトが国境内でやっていたことを、リージョンステイトが国境を越えてコンパクトにやっているわけだ。

繁栄をリージョン間で争う時代になれば、同じ国内でも強いリージョンに人、物、金がさらに集積していく。この現象が世界中で起きていて、日本も例外ではない。地方の消滅の原因は少子化だと思われがちだが、真因は都市への流出にある。少子化も解決すべき課題だが、仮に少子化に歯止めがかかっても、地方が衰退する流れは変わらないことを肝に銘じておくべきだ。

私がこのニュースにピンと来ていない理由がもう一つある。多くの市区町村に消滅可能性があるというが、日本はそもそも地方自治体の定義がはっきりしておらず、行政区分による分析に信頼が置けないのだ。

海外の人に日本の地理を紹介するときに困るのが都道府県の違いだ。海外にも、アメリカのワシントンD.C.、ドイツのベルリンなどのように特別な行政区分を設けているケースはある。ただ、都道府県というように4種類もあるとその違いの説明が難しい。さらにその下には市区町村があり、市区町村の中には地区で水道などを管理しているところもある。しかもそれらの区分に統一されたルールがない。

日本の行政区分は、世にも奇妙な複雑さである。リージョンステイトの時代に、150年前の明治に決めた行政区分を前提にした分析や施策はあまり意味がない。

大都市から地方へ鍵を握るのは引退世代

魅力のない地方から人が移動する世界的な潮流に抗っても無駄である。今求められるのは、人の移動を前提にして経済を膨らませる発想だ。

実はアメリカやヨーロッパには、逆に人が流入している地方都市もある。アメリカでいえば、ネバタ州のラスベガス、フロリダ州のオーランド、アリゾナ州のフェニックスなど、それに米南部サンベルトにあるリゾート地やアクティブシニアタウン等だ。

アメリカのビジネスパーソンは20〜40代をニューヨークやシカゴなどの寒い地域で働いて金を稼ぎ、休暇で比較的温暖なサンベルトに旅行する。旅行で気に入った土地に2軒目の家を買い、リタイア後に移住するのである。