首相が思い描いた「好循環」にはなっていない

つまり、さまざまなところで負担が増えるのを隠し、「減税」という言葉を前面に出すことで、国民の批判をかわそうとしているように見える。それで選挙に打って出て、議席を確保しようというのが戦略だったのだろう。

だが現実は、首相が思い描いた「好循環」にはなっていない。4月の賃金増加率は2.3%と29年ぶりの高い伸びを記録したが、物価上昇率はそれを上回ったため、実質賃金は0.7%減と25カ月連続のマイナスとなった。6月に実質賃金プラスという岸田首相の「デフレ脱却シナリオ」がもろくも崩れたことが、解散断念の一つの理由かもしれない。

今後も、実質賃金が本格的にプラスになっていく環境にない。政府が電気代とガス代に補助する事業を5月使用分で終了したため、6月以降の光熱費は大幅に上昇する。エコノミストの多くは、実質賃金がプラスに転換するのは、早くて2024年秋という見方だ。

もっとも、それも楽観的な見通しかもしれない。

家の形のフレームに、LED電球
写真=iStock.com/Tatiana Sviridova
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「ステルス増税」で国民の目を誤魔化そうとしている

一時1ドル=160円を付けるなど円安が進んだことで、輸入物価も上昇、再び物価上昇に拍車がかかってきた。輸入食料品などの価格高騰もあり、庶民の生活を圧迫している。これに対して消費者は、消費を抑えることで乗り切ろうとしているため、生活必需品を中心に消費が減少する懸念が強まっている。

それが企業の売り上げや利益にマイナスに響いてくれば、給与を増やす余裕はなくなる。特に中小企業の場合、輸入原材料やエネルギー代の上昇を価格に転嫁するのに精一杯で、従業員の給与を大幅に引き上げる余力に乏しい。経済の好循環ならぬ悪循環が始まりかねないのだ。

本来、物価上昇で庶民の生活が苦しくなった時こそ「減税」を行うのがオーソドックスな手法だ。コロナの最中に欧米先進国では消費税減税をする国が相次いだ。消費を喚起しようと思えば、本来は消費税率を引き下げる減税を行う方が、分かりやすく、効果も明白になる。だが、財務省はいったん税率を下げれば戻せなくなるとみて、消費税減税議論は封印している。

岸田首相はよほど「増税メガネ」と揶揄されたことが嫌だったのか、徹底して増税が国民の目に触れることを避けているように見える。代わりに「ステルス(見えない)増税」で国民の目を誤魔化そうとしているように見えて仕方がない。

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