「減税」にこだわった岸田首相

「定額減税」が6月から始まった。納税者本人と家族一人ひとりに4万円(国税3万円、地方税1万円)が2024年の税金から控除される。夫婦と子ども2人の4人家族ならば16万円というわけだ。

だが、この定額減税、仕組みは複雑で、2024年の所得税から減税額分を引ききれないと見込まれる場合は、その差額を推定計算して「調整給付」として現金支給されることになっている。それなら始めからコロナと同じ定額給付金にすればよかったと思うのだが、首相は「減税」にこだわった。しかし、調整給付を受ける人の数は2300万人にのぼると見込まれる。減税対象の納税者6000万人の4割弱に相当するのだ。

政治資金規正法改正案の衆院通過を受け、記者団の取材に応じる岸田首相=2024年6月6日午後、首相官邸
写真提供=共同通信社
政治資金規正法改正案の衆院通過を受け、記者団の取材に応じる岸田首相=2024年6月6日午後、首相官邸

扶養者の対象把握などもあり、減税のための給与計算を行う企業や基礎自治体は大わらわ。そうでなくても忙しい経理部員は忙殺されている。そこに、減税額を給与明細に記載するよう政府が義務付けた。「減税の効果」を知らしめたい、ということなのだろう。

そもそも、この定額減税。岸田文雄首相肝いりの政策だ。2023年10月23日に国会で行った所信表明演説と2023年11月2日のデフレ完全脱却のための総合経済対策で表明した。「賃上げの促進と合わせてデフレ脱却を確実にすること」が目的とされた。

「実質賃金増加」に「減税」をぶつけて解散総選挙を打つシナリオ

首相就任以来、エネルギーや輸入品、食料品など急速に物価が上昇してきたことに対して、岸田首相は、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するとし、経済界や労働組合などに強く働きかけてきた。

当初、岸田首相は2023年秋にも解散総選挙を模索していた。2024年9月には自民党総裁任期を迎えるため、その前に解散総選挙で勝利、総裁続投というシナリオを描いていた。ところが、2023年7月ごろから物価上昇への批判などから岸田内閣の支持率が急落し始め、解散どころの状況ではなくなった。そこで打ち出したのが「デフレ脱却シナリオ」だった。

物価が上昇しても、それを上回って賃金が上がれば、消費は活発化し、企業が潤うことで、再び賃金が上がっていく。そんな「経済好循環」を岸田首相は思い描いた。2024年春闘で大幅な賃上げが実現すれば、それが4月の給与から増え、統計が出てくる6月には「実質賃金が増加」というニュースで沸き立つはずだった。そこに減税をぶつけ庶民の懐が暖まったところで、解散総選挙を打てば、与党に有利に働くと読んでいたのだ。

だからギリギリの段階まで6月の通常国会会期末での解散が検討されていた。