特殊害虫に対抗するための「両輪」

日本は、特殊害虫の根絶で世界トップレベルの技術を持っている。

1982年のミカンコミバエ(*6)と、1993年のウリミバエの日本からの根絶(*7)、そして、度重なるアリモドキゾウムシの侵入との闘いの末、2013年に沖縄県久米島から(*8)、2021年に沖縄県津堅島から(*9)アリモドキゾウムシを根絶することができた。

ミバエ類の根絶によって、南西諸島からマンゴーやゴーヤの出荷が可能になった。その後、現場では海外から日本へのミバエ類の再侵入を防ぐ取り組みを続けている。

久米島で、潮が引いたタイミングを狙い、浅瀬を伝って寄主植物を持ち帰る防疫チーム
筆者提供
久米島で、潮が引いたタイミングを狙い、浅瀬を伝って寄主植物を持ち帰る防疫チーム

1940年代に始まり80年以上続くミバエ類をはじめとした特殊害虫との闘いだが、「植物検疫」と「地方での根絶事業」の仕事とが両輪となって日本の農業を守り続けているのだ。

気候変動、インバウンド、ネット社会の物流……すべてがリスク

日本の農業と食の安全を守るため、いまこの瞬間も、植物に有害な病害虫の侵入・蔓延を防ぐべく、輸出入植物および国内植物の検疫が全国のどこかで行われていると想像してみてほしい。

サツマイモを加害するゾウムシ類など新たな侵入害虫の根絶や、いったん南西諸島から根絶したミバエ類の海外からの再侵入を防ぐ取り組み、そして、日本の食を守るためにそのような仕事に日夜忙殺されている人々がいることを、現在では多くの人がまったく知らない状態になっているとも聞く。

日本における侵入害虫の根絶作戦は、現場で働く方々の想像を絶する努力によって、2010年頃までは連勝に次ぐ連勝に沸いた。しかし2015年以降、「敵」(である害虫たち)がすでに駆逐したはずの地域に再び上陸し始めている。

これにはまぎれもなく気候変動、グローバル化、インバウンド、ネット社会による物流の増大や働き方改革など、現代の日本が抱える諸問題が深く関わっている。

社会の変化が進んだとしても、日本の食と農を守る現地現場の奮闘を忘れてはならない。なぜなら食と農の安全を守る取り組みは、すべて国民の税金によって支えられているからだ。