店主が人を惹きつける理由がわかった気がする

ひと通りの話を聞き終えると、頭から尻尾、肝まで、まるまる1匹が活け造りのように並んだ皿が運ばれてきた。豆腐、トマト、大盛りのご飯、味噌汁もテーブルの上に並ぶ。七輪を囲むように並ぶお皿の数々は見ているだけで心がおどる。ちょっとした豪華なコースメニューのような雰囲気がある。

さばいたウナギ。皿にのせた状態で客に提供する
筆者撮影
さばいたウナギ。皿にのせた状態で客に提供する。

タレをつけたうなぎを七輪に横たえ、火を通していく。ご飯にバウンスした後、口に運ぶと、みずみずしい旨味が舌をおおった。キレのあるタレとの相性も抜群だ。いくらでもご飯が進む。店主との会話は刺激的で、さらに食欲を増幅させる。

うなぎ
筆者撮影
継ぎ足してきたタレを塗りながら、客自身が七輪で焼いていく。

「味はどうだ?」
「全てがおいしいです!」
「あたりめぇだろ。ウチは全ての料理にこだわってんだよ」

食事と会話を通じて、気づいたことがある。それは、武さんの人に対する真摯な姿勢だ。どのエピソードを聞いても、「してくれる」「お世話になった」などの感謝の言葉が並ぶ。テンポが速く、群馬なまりのある話し方は荒さを感じる部分もある。ただ、その根底には実直な優しさを感じる。

「この仕事が大好きなんだよ」

提供しているメニューは、税込みで3000円。他のお店で食べると倍以上の値段はするはずだ。家賃がかからないとは言え、燃料費や材料費の高騰を考えるとほとんど利益はない。2人の子どもは結婚して、独立している。海を越えて客が訪れるものの、テレビの放映がなければ、1日の平均客数は3~5人だ。店を継ぐ人も現時点ではいない。ふと疑問の言葉がこぼれた。

「やめようと思わないんですか?」

武さんは満面の笑みで即答した。

「思わない!」

「この仕事が大好きなんだよ。料理と会話で目の前のお客さんが心から喜んでもらえる。それに、いろんな人の知らない話も聞けるしな。未知の世界に触れられるとワクワクするんだ。こんな日々を送れて本当に楽しいよ」

店主の野沢武さん
筆者撮影
客との触れ合いが野沢さんのエネルギーになっているという。
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