2000人以上を調査してわかった「成長思考」と「固定思考」

心理学者のアンジェラ・ダックワースとキャロル・ドゥエックは、2000名以上の高校生を対象に、「成長思考」についてのアンケートを実施しました。すると、「成長思考」の生徒は「固定思考」の生徒よりも、はるかにやり抜く力が強いことがわかりました。その後、低学年の子どもたちや、年上の成人を対象に調査したところ、「成長思考」と「やり抜く力」は比例することがわかりました。

学校の教室
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やり抜く力とは、「困難に直面してもめげずに立ち向かう力」ですので、「成長思考」「前向き」「ポジティブ」「心が強い」という姿勢がその原動力になることは、よくわかると思います。成長マインドセットは、困難や逆境を楽天的に受け止められるので、粘り強く立ち向かうことができるのです。

ドゥエックは、「マインドセットは、人が過去にどのような成功や失敗を経験してきたか、そして周囲の人々、とくに親や教師などの権威をもつ立場の大人が、どのような反応を示したかによって決まる」と述べています。また、ダックワースも「(成長思考になるか固定思考になるかは)子どものころのほめられ方によって決まる確率が高い」と述べています。ほめ方については、すでにお話ししてきたとおり、「結果(正解や一番であったこと、100点満点)をほめない、プロセスをほめる」「能力や才能をほめない、努力をほめる」ということが重要です。

マインドセット、心の持ち方は経験したことのある成功と失敗で決まる、ということを示す、動物を使った実験があります。成功と失敗の体験内容が、人の心を強くするか弱くするか、その違いになって現れてくるようです。

幼いころの成功体験が、子どもをたくましく育む

セリグマンと犬の無力感についての実験をしたスティーブ・マイヤーは、その40年後にラットを使い、ほぼ同じ実験をしました。回転ホイールを回せば電気ショックが止まるグループと、電気ショックを制御できないグループとにラットを分けたのですが、犬の実験と違うところは、ラットが生後5週間だったこと。これは人間の青年期に当たります。ラットを使った2回目の実験では、5週間後にラットが成体になったとき、両グループを回転ホイールがない状態(=電気ショックが制御できない状態)に置き、ラットの行動を観察しました。

この結果、最初の実験で制御可能なストレスを経験したラットは冒険心が旺盛で、成体になったときに「学習性無力感」に免疫力を持っているように見えました。レジリエンス(耐性と回復力)を身につけて成長したので、無力感に陥ることはなかったといえます。一方で、若いときに制御できないストレスを経験したラットは、成体になって再度制御できないストレスを経験したときに、臆病な行動をとることがわかりました。つまり、若いころにつらいことを経験しても、「自分でストレスを制御できる」という成功経験をした場合、冒険心が旺盛になり、目に見えてたくましくなり、強くなったということです。