数字を見ても、プロテイン市場は伸びています。富士経済の調べによると、プロテインなどのタンパク補給食品の国内市場は13年に623億円だったのが、23年は2580億円の見込みに。10年で4倍以上に市場が膨らんでいます。プロテインブームが慢性腎臓病患者の増加に影響している可能性は否定できないのではないでしょうか。

プロテインを摂取する人は、「激しい運動をしてエネルギー不足になると、体をつくっているタンパク質が使われて筋肉が細くなるから、プロテインを摂取して補おう」と考えます。フィットネスクラブやプロテイン飲料・食品メーカーも、そのような解説をして運動後のプロテインの摂取をすすめます。

しかし、生化学の観点からいえばその理屈は間違い。人間の生命活動では、まずブドウ糖をエネルギーにします。グリコーゲンなどになって体内に蓄えられていたブドウ糖を使い切ると、次は脂肪がエネルギーになります。体重60キログラム程度の男性が絶食すると、脂肪を使い切るのに1カ月はかかります。

筋肉が分解されてタンパク質がエネルギーとして使われるのは、脂肪を使い切った後です。ボクサーやボディビルダーでさえ体脂肪率がゼロになることはありません。ましてや一般の人が脂肪を使い切るほど激しい運動をして筋肉のタンパク質が使われるなど、ほぼありえない話です。つまり、プロテイン由来のタンパク質が筋トレの効果向上に寄与することはないのです。

プロテインの栄養は体にとって害になる

プロテインに効果がないだけならまだましです。医師として看過できないのは、プロテインが害になるからです。

タンパク質は体内に入ると分解されて、アミノ酸という物質になります。人体の中にあるアミノ酸は「アミノ酸プール」という完璧なシステムによって一定量(合計約100グラム)に保たれています。しかし、プロテインを摂取するとこのシステムのバランスを乱し、腎臓に著しく負担をかけるのです。

具体的に説明しましょう。アミノ酸プールに入るアミノ酸は、3つの経路で生成されます。

① 筋肉など体のタンパク質が分解されることによってもたらされるアミノ酸
② 食事から摂取したタンパク質由来のアミノ酸
③ 体の中でつくられるアミノ酸

このうち①は、1日に約400グラムのタンパク質が使われます。これは運動してもしなくても同じ。筋トレしたからといって、さらに多くのタンパク質が分解されるわけではありません。

一方、アミノ酸の消費経路も3つあります。

① 体(筋肉も含まれる)のタンパク質を合成する
② 過剰なアミノ酸を尿素、窒素などに変えて尿から排泄する
③ ブドウ糖や脂肪を合成する

生成経路で使った筋肉のタンパク質は、消費経路の①で再合成されるので、筋肉には影響がないことがわかります。

注目してもらいたいのは、消費経路の②です。生成経路の3つでつくったアミノ酸が過剰になって消費経路の①と③だけで対応できないときは、②の消費経路で体外に排出します。

国が定めるタンパク質の1日の推奨摂取量は男性で65グラム、女性で50グラムです。この数字はやや多めに設定されており、本当に必要な量は一般的な食事で十分に補えます。それに加えて摂取するプロテインは過剰な栄養であり、消費経路②の働きが続くことで腎臓が疲弊し、機能が低下する。医学的にいうと「過剰ろ過による腎機能障害」が起きて、慢性腎臓病につながります。

【図表】タンパク質は食事だけで十分摂取できる