いまの時代は子供より大人のほうが情けない。田舎には夢がないとぼやく子供は、反対に田舎に夢を見て都会から移住してくる大人の生き写しではないか。サラリーマンをリタイアして農家をやりたいと北海道に移住する大人たちがたくさんいる。だが、私が思うにその人たちは1割残るかどうか。

それは、せっかく普通の食事ができているのに、もっとおいしいものがあると幻想を追い求めることと少し似ている。とかく世の中には情報が多すぎて、大人も子供もその中で溺れているにすぎない。

2008年11月、縁あってP・F・ドラッカー氏夫人であるドリス・ドラッカーさんにお目にかかることができた。90歳を過ぎてなお経営学の泰斗の思想を受け継ぎ、夫の遺志を継いでいくという英明な人が「過剰な情報の中で暮らすことは、人間をだめにする」と危惧されていたことがとても印象的だった。

いま子供は、子供部屋の扉の向こうで、インターネットやゲームの世界に閉じこもり、もう一つの秘密の部屋をつくっている。そして学歴格差、年収格差、はたまた地域格差などといったマイナスの情報ばかりを大量に吸収し、勝手に「人生を諦めて」しまっている。大人はそうした子供の“部屋”に入り込み、子供の目を覚まさせなくてはならない。

そんなくだらない情報を知るよりは、読み書き算盤(そろばん)の技能と人間関係をきちっと保てる対応力、多少のことにへこたれない強い気持ちを身に付けさせよう。そうすれば田舎であろうと、都会であろうと夢はどこでも持てるはずだ。自分の始末は自分でする、自分の餌を自分で稼ぐ。これができればどこでも楽しく生きていける。大切なことは、その生きる技術を大人がきちんと子供に身に付けさせることなのだ。

(山田清機=構成 小倉和徳=撮影)