続出する企業のシステムトラブル
今に始まったことではないが、企業のシステムトラブルは思ったよりも多い。2023年10月に発生した全銀ネットの障害では数百万件の送金が滞り社会的にも大きな影響があり、2027年に稼働を見込んでいた次期システムの検討作業も停止に追い込まれた。
最近も、江崎グリコのシステム障害によりプッチンプリンの出荷が止まり(※1)、ゆうちょ銀行でも100万件を超える入金遅延が起きた(※2)。
※1 日本経済新聞「プッチンプリン出荷再開を延期 グリコのシステム障害」(2024年5月1日)4月3日のERP切り替えが原因で、調達や出荷、会計を一元的に管理するものだったようだ。5月1日時点では冷蔵品の出荷再開は6月中とされている。
※2 日本経済新聞「ゆうちょ銀行で障害、入金遅延118万件 夜10時すぎ解消」(2024年4月23日)4月23日に障害が起き当日中には入金処理は完了している。
なぜ、このようなシステムのトラブルが続出するのだろうか。
その答えはシンプルで、日本のユーザー企業にはITの専門家がいないからだ。
そんなことはないだろう、大企業にはちゃんとした情報システム部もあるし、メガベンチャーと呼ばれるようなネットサービス企業もたくさんあるではないか、という指摘もあると思う。
しかし、そこで働いている一人一人を見れば、その企業の正社員ではなく、いわゆるSIer(システムインテグレーター)と呼ばれるIT専門企業から派遣されているケースがものすごく多い。
日本のユーザー企業のIT部門はいわば張り子の虎なのだ。
日本のユーザー企業にはITのトップがいない
日本のユーザー企業にももちろん、情報システム部門管掌の役員もいるし、情報システム部長もいるが、そうしたポジションはいわゆるCIO(Chief Information Officer)ではないことが多い。
実際、ITのユーザー企業の団体である日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2024」(※3)では、「役職として定義された専任のCIO等」がいるのはわずか5.7%で、兼任を含めても15.9%にすぎない。売上が1兆円を超える企業でもCIOの設置率は専任が27.5%しかなく、兼任を含めても60%にとどまる。
※3 日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2024」
業種でみると金融・保険のCIO設置率が専任で19.1%、兼任を含めて40.4%と突出して高く、逆に専任CIOの設置率が10%を超える業種はない。
諸外国に比べたCIO設置率は日本が断然低く、平成30年版情報通信白書(※4)によれば、日本のCIO設置率11.2%に対して、米国36.2%、英国44.4%、ドイツ35.6%などとなっている。
※4総務省「情報通信白書平成30年版」
しかも、このものすごく少ない日本のCIOが、きちんとした専門性を保有している保証はどこにもない。