コンサルとSIer任せのIT戦略になっている

システムの素人がプロに発注している状況では、受注する側が主導権を握っている。そのため、ITに関する年度計画や戦略策定は、受注する側のSIerからの提案がベースになっている。

場合によっては、システム開発に関してコンサルが入っている場合もあるが、その場合もユーザー企業は自分で戦略を検討しているわけではなく、コンサルからの提案を受ける形になる。

つまり、日本のユーザー企業のIT戦略は、コンサルとSIerというお金をもらう側任せになっているということであり、だとすると受注側は自らの受注額の最大化につながる提案を行うことになる。

それは、発注側にとって最適な戦略になるはずもない。もちろん、受注側もそんなことは承知のうえで、それらしいキーワードをちりばめた提案を提案し、それをユーザー企業の情報システム部門や担当役員が自分たちの計画に組み込んでいく。

このような状況では、ITコストは年々増えていき、一方で戦略的な成果は出ず、場合によってはトラブルが起きる。

しかし、システムを運用しているSIerなしで事業は成り立たず、トラブルが起きたから、コストが高止まりしているからといって、発注先を変更することもできない。

すでに多くのユーザー企業はSIerにロックインされているのだ。

デジタルトランスフォーメーションのイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
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IT戦略推進のためには「コスト削減」を諦める必要がある

既にあるシステムの維持、改修、運用の主導権をSIerに握られている状態では、ユーザー企業に最適な戦略を実行する難易度は極めて高い。

しかも、ユーザー企業の情報システム部門は常にコスト削減の圧力にさらされており、追加投資の承認を得ることも簡単ではない。

そうした状況で、事業に必要なIT戦略を実行するとすれば、何かを諦めるしかない。

このとき諦めるべき最初の目標はコスト削減だろう。

既存システムの主導権をSIerに握られている以上、SIerの既得権益は守らざるをえない。もし、既得権益を侵すようなことをすればSIerの積極的協力が得られないからだ。

だとすれば、まずは既得権益を認めたうえで、それを侵さないことを保証して、どのように同じ方向を向くかが最初の目標になる。

そのためには、発注側のユーザー企業にITの専門家であるCIOと、戦略策定と実行を担う部隊が必要になるが、そうした人材は外から招聘しょうへいせざるを得ない。招聘とは、もちろん公募やあっせんでという意味ではなく純粋なヘッドハンティングになる。なぜなら、現在活躍していて評価を受けている優秀な人材が自分から応募してくることはないからだ。