2008年には2004年の1/4まで売上が落ち込んだ

「広める」

こうして「アイスのイノベーション」として作られたクーリッシュだったが、斬新さへの注目は長続きせず、2005年から売上を低下させていき、2008年には、2004年の売上の1/4まで落ち込んでしまった(※5)

一般に、イノベーションは、その斬新さや面白さを強調することで、「新しモノ好き」の人たちから歓迎されやすい。一方、保守的で慎重な一般層からは、すぐには受け入れられにくい。そして、「新しモノ好き」の人たちの興味は、また別の新商品へと移っていきやすいものだ。だから、一時的な話題性で終わらせずに、作ったイノベーションを一般層まで広めるためには、使いやすさや便利さをアピールするマーケティングに軌道修正していくことが重要になる。

初期のクーリッシュは、消費者から使いにくさが指摘されていた。「パウチ容器を手で揉みながら飲もうとしても、冷たすぎて持ちにくい」「アイスを飲もうとしても、飲み口からアイスが出てきにくい」といった声が聞かれた。そこで、パッケージの内側を断熱性の高い素材に変更して、手で持った時の冷たさが和らぐように改良した。また、ストロー部分を短くして、飲み口の口径を8.5ミリから10ミリに拡張するなど、飲みやすさの向上にも取り組んだ。商品全体でも、高さを8ミリ伸ばし、厚みを10ミリ薄くして、形状をスリムにすることで、片手で持ちやすいよう改良を加えた(※6、7、9)

「ながら食べ」の便利さをアピールするCMを展開

こうした使いやすさを向上させる商品改良に加えて、広告でのアピールポイントについても変更に踏み切った。クーリッシュを食べた消費者のクチコミを調査したところ、作業や移動をしながら食べやすいという「ながら食べ」への評価が特に高かった。これを受けて、それまではアイスの味を強調していたテレビCMを、「ながら食べ」の便利さをアピールするものに変更した。その結果、使いやすさや便利さが一般層に伝わっていき、2009年からクーリッシュの売上はV字回復することに成功した(※10)

テレビ
写真=iStock.com/Yuzuru Gima
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その後、また少し頭打ち感が出てきた2014年頃には、1年かけて議論を重ね、さらなる軌道修正に取り組んだ。この頃、クーリッシュは、社会人が一息つくときのリラックス商品として位置付けられ、20代男性がメインターゲットに想定されていた。しかし、消費者の声を調査してみると、リラックスよりも、クールダウンやリフレッシュのニーズの方が大きく、販売構成比では男女や年齢に大きな偏りが出ていなかった。この想定と現実のずれを解消するために、性別や年齢を絞りすぎず、幅広いターゲットに向けたフレーバー開発やCM作りに変更したところ、2016年から売上を再成長させることができた(※5)