蔵王と御嶽山での生還劇

次に2000(平成12)年以降の長期遭難をざっと見ていこう。

羽根田治『ドキュメント生還2』(山と渓谷社)
羽根田治『ドキュメント生還2』(山と溪谷社)

同年8月27日、73歳の男性がひとりで「蔵王の雁戸山へ登山に行く」と言って家を出たまま消息がわからなくなった。家族の届け出を受けて、県警や消防団らが捜索を開始したが見つからず、9月2日をもって捜索は打ち切りとなった。しかしその翌日、蔵王山系八方沢付近の登山道近くでうずくまっているところを釣り人によって発見された。全身を強く打って衰弱しており、話もほとんどできない状態であったが、命に別状はなかった。

このケースとほぼ同じ時期、長野県の御嶽山でも63歳の単独行男性が行方不明となった。男性は27日に「御嶽山に行く」と言って自宅を出発、この日は剣ヶ峰の山小屋に宿泊し、翌朝、お弁当のおにぎりを持って出ていったのち、行方がわからなくなっていた。それから8日後の9月4日、捜索を行っていた長野県警ヘリが、七合目の沢の近くで手を振って助けを求めていた男性を発見した。救助された男性は山麓の病院に搬送されたが、腕を骨折しているほか、肩や腰を打つなどして衰弱していたという。

極寒の山中を生き延びた知恵

また、北海道の大雪山系では、同年12月15日から17日までの日程で、黒岳から旭岳への縦走を計画した男性2人組のパーティが、下山予定日を過ぎても帰らないという事故が起きた。18日から開始された捜索は難航し、なんの手掛かりも得られないまま「生存の可能性は極めて低い」として、21日には打ち切られてしまった。

しかし、その翌々日の23日、2人のうちの25歳男性が自力で下山してきて、層雲峡温泉に近い国道にたどり着いた。2人は下山中に吹雪でルートを大きく外れてしまい、ビバークしながら山麓を目指して下山を続けてきたが、もうひとりの衰弱が激しく、救助を求めるため男性がひとりで下りてきたのだった。山中でビバークしていた28歳の男性は、その日のうちに出動したヘリによって無事救出された。ビバーク中、2人は体温の低下を防ぐために抱き合って眠り、そうめんにマヨネーズをつけて食べるなど高カロリーな食事を摂って体力を維持していたという。

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