相手に合わせた思考と言葉選びが大切

しかし、長期的な視点で見ると、これでは応用が利きません。

ベテラン社員や経験豊富な人は、具体的な指示は窮屈に感じます。「清潔で機能的、華美でないシャツで」と抽象的に伝えたほうが、自由にシャツが選べ、応用が利きます。

相手に合わせて、具体と抽象を行き来できる思考と言葉選びが大切です。

具体的に話すには、「具体的には〜」と話し始め、5W2Hのようにいつ、どこで、誰が、何をするなど目に見えるレベルに落とし込んで個別化し、現場ですぐに行動できるようにするのがポイントです。

5W2H
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです

抽象化は「ざっくり言えば〜」「この話の肝は〜」と同じ要素をまとめて物事の全体像が第三者にイメージできるよう、方向性や大枠を示して話します。説明は、抽象→具体の順で話すと、わかりやすくなります。

腑に落ちるたとえ話のつくり方3つのステップ

たとえ話が上手になると、聞き手が「なるほど!」と思わず膝を叩く場面が増えます。

たとえ話の極意は、縁遠いものや初めて聞くものを身近なものに置き換えることです。

「分散投資」を説明する場合、どちらがわかりやすいでしょうか?

①「分散投資とは特定の商品に絞って投資するのではなく、複数の商品(様々な国や地域、銘柄など)に投資をして、リスクを分散することです」
②「株の世界では、卵は1つのカゴに盛るなという格言があります。卵を1つのカゴに盛ると、落としたときにすべての卵が割れますが、複数のカゴに分けておけば、1つがダメになっても他のカゴの卵は無事です。このように投資リスクを分散するのが分散投資です」

人は頭で理解しても、腑に落ちなければ行動しません。だから、②のように身近で五感に訴えるたとえ話ができると、聞き手に、自分ごととして理解してもらい、行動を変えることができるのです。

では、たとえ話はどのようにつくればいいのでしょうか?

次の3ステップでつくります。

①主訴を考える:一番伝えたいこと(=本質)は何かを考える
②類似要素を探す:その本質と共通する要素を洗い出す
③聞き手を理解する:共通要素を、聞き手にとって一番身近なもので表現する

「要約=文章の要点をまとめること」の説明をしたい場合、①本質は「無駄な部分を削り、要所を残すこと」。

②「無駄を削り、要所を残すこと」は、ダイエット(余分な贅肉を落とすこと)や剪定などにも共通する。

③聞き手の趣味がガーデニングの場合、身近なものは「剪定(不要な枝葉を切り落とし、樹形を整えること)」と判断します。

そして、「要約とは、庭師が木を整える際に枝葉を切り落とし、幹だけ残すように、無駄な部分を削り、肝心な部分だけ残すことです」とたとえます。

伝える上では、相手にとって何が身近なことなのかを考えることが大切です。