プーチンの金融資産口座も即差し押さえ
【茂田】携帯電話の位置情報やクレジットカードの使用情報までいくと、シギントの力が必要になってきます。
【江崎】そういうことをやり始めているんですね。
【茂田】やり始めているというか、2013年のスノーデン漏洩情報によれば、シギント機関のNSAには既に「フォロー・ザ・マネー」(Follow the Money)というプログラムがあって、世界中のカネの流れを全部把握するとしています。
SWIFT(※1)(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication:スイフト、国際銀行間通信協会)と言われる国際送金決裁システムは、公式にもアメリカは犯罪対策としてSWIFTからデータを一部入手しているとされていましたが、実はそのシステムをハッキングしてデータを裏から全部取っていた実態があります。
【江崎】それがあったから、アメリカは、ウクライナ戦争が始まるとプーチンと側近メンバーたちの金融資産の口座の差し押さえを即座にできたわけですね。
※1 SWIFT:銀行など金融機関を結ぶ情報通信サービスの運営団体。1973年に世界の銀行など金融機関が出資し、協同組合形式で発足した。本部はベルギーにあり、国際送金を事実上一手に担う。1万以上の世界の金融機関がSWIFTの標準化された通信フォーマットを利用して日々大量の決済業務等を行っている。
巨大データベースで相手を黙らせられる
【茂田】ええ。そうしたフォロー・ザ・マネープログラムで、世界のカネの全体の流れを把握しているのです。銀行間送金だけでなく、クレジットカードも使った瞬間に定型フォーマットでデータが流れるので、それもタッピング(覗き見)しています。世界のクレジットカードの決済状況はどうなっているのか、データを収集して、巨大データベースを作っているわけです。
【江崎】ウクライナ戦争の前後でロシアとプーチン側に好意的な言論を流す人たちが何人かいました。そのうちの一人について、米軍の情報部門の関係者が、「彼はウクライナ戦争前にモスクワに行っているのだけど、クレジットカードを使った履歴がない。クレジットカードを使わずにホテルに宿泊できない以上、彼は誰かのカードでホテルに泊まったんだろうが、それは誰のカードなんだろうかね」と言ったのです。
【茂田】そういう分析もできて、やっているということです。
【江崎】全世界に対してそうした情報収集をやっているから、どこをどう突けば、確実に相手は黙るのかが分かる。その能力がターゲティングにも繋がっている。アメリカ軍はそうしたインテリジェンス能力をもって、情報ネットワークを運用しているのですね。