「渋い店にフラッと」がトラブルになりやすい

さらに、訪日外国人のタイプによってもトラブルは異なる。大別すると、ミシュランガイドの星付きレストランや予約困難店に予約して訪れる訪日外国人と、下調べ程度はするかもしれないがふらりと入店する非予約=ウォークインの訪日外国人に分類される。

前者であれば、ノーショーやドタキャンや、予約者以外の代理利用など、日本人の食通と同じようなトラブルが多い。飲食店の種別としては基本的に、最低でも客単価が3万円以上のファインダイニングが該当する。

こういった“ハイエンド”な店であれば、ある程度は外国語でコミニュケーションがとれたり英語の表記があったりするのが普通だ。そうではなくとも店主やシェフのこだわりが強い店が多く、それを知った上で予約しているのでトラブルに発展しづらい。

後者は「せっかく日本に来たのだから」と、何か日本らしいモノ=食事を体験しておこうと考えている。良さそうだと感じたところに入店するだけなので、日本の飲食店に対する理解はあまり高くない場合も多い。主にラーメン、蕎麦、寿司、焼鳥、お好み焼き、鉄板焼、天ぷらといった店、居酒屋や角打ちなどが該当する。

こういったクラシカルな業態かつウォークインで入れる個店に限って、訪日外国人の応対に手が回らないことが多いのが難しいところだ。

ゴールデン街の焼き鳥屋で食事する外国人観光客たち
写真=iStock.com/ablokhin
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非正規ばかりの飲食業界は人手も教育も難しい

では、どうして訪日外国人に対して、最適なサービスを提供できないのか。

大きな理由は人的リソース不足だ。飲食店におけるサービススタッフの業務は、テーブルのセットアップ、電話対応、来店応対、オーダーの受け付け、料理のサーブ、バッシング=片付け、会計、クロージングなど多岐にわたる。

これだけ多くのことを瞬時にこなさなければならないが、総務省が集計する「サービス産業動向調査」によれば、飲食店における非正社員の割合は80%を超えており(2024年1月分速報値より)、スタッフ全体に対する高い水準での教育は難しい。こういった状況で母国語ではない言語にも応じるとなれば、サービスの負荷がかなり上がることは容易に想像できる。

飲食業界ではコロナ禍に多くのスタッフが離職しているが、流行が収まったからといって戻ってきてはいない。すでにほかの業種で生計を立てており、戻って来る理由が薄いからだ。もともと飲食業界は給与も福利厚生も好待遇とはいえない。

ミシュランガイドの星付きレストランや有名シェフがいる店、予約困難店でない限り、恒常的に人材不足が深刻化しているのが普通だ。残念ながら、給料や時給を上げても応募がまったくないという話は珍しくない。