「2円得する」より「2円損したくない」心理
損失回避の法則とは、行動経済学者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが唱えた「プロスペクト理論」の1つです。ひとことで言うなら「人間は本能的に“得”よりも“損”に大きく反応する」という理論です。
レジ袋を例に説明しましょう。
2020年7月、スーパーやコンビニ、百貨店など、日本でも多くの店舗でレジ袋が有料化になりました。以前は無料でしたが、過剰包装が環境問題との兼ね合いから問題視され、廃止されました。今は買い物してレジ袋を使いたいと思うと、小さいものでも2円ほどを払う必要があるのは、知ってのとおりです。
もっとも、当初はこうではありませんでした。2円でレジ袋を売るのではなく、「レジ袋を使わなければ2円安くなる」というシステムだったことを覚えているでしょうか。
しかし、このときはレジ袋利用者はあまり減らず、効果が薄かったのです。ところが、「レジ袋を使いたいなら2円払う」システムにした途端、多くの人々が「レジ袋いりません」と断り、エコバッグや持参した使い回しのレジ袋で買い物するようになりました。
要するに「2円得するよりも、2円損するほうがインパクトがあった」ということ。2円得することにはさほど興味がない買い物客も、2円損することには大いに興味が湧き、「できれば避けたい!」と拒絶したわけです。
日本人の不安遺伝子も損したくない感情を強く刺激
レジ袋以外の普段の買い物でも、私たちは「損失回避の法則」をよく発動させています。
たとえば、「1万円のジャケットを9000円に値引きしてくれたので購入した」とします。
それは単純に「1000円の得をした」買い物。
けっこうお得ですよね?
では「1万円で購入した同じジャケットが別の店9000円で売っていた」とします。
こちらは今度は「1000円の損をした」買い物、ということです。
得をした場合も、損をしたのも、同じ「1割・1000円」という金額です。
ところが、私たちはなぜか、後者「1000円の損をした」ほうに、なんだかものすごいダメージを受けてしまいます。実際に自分に置き換えると「1000円の得をした」喜びより、うんと大きく感情を動かされる気がしませんか?
カーネマンはこのように、人は「得よりも損のほうにずっと大きな心理的インパクトを与えられる」と説いています。彼の実験によると得と損の心理的インパクトの差は、実に2.25倍であるとしています。
この損失回避の法則と、日本人の不安遺伝子がつながると、どうなるでしょうか?
日本人の多くに備わっている不安遺伝子は、そもそも人間に大きなインパクトを与える「できるだけ損をしたくない!」感情をより強く刺激します。