コロナ禍の買い占めで見える「日本人の異常な不安」

新型コロナ禍初期の「パニック買い」は、まさにそれでした。

マスクや、消毒用アルコール、トイレットペーパーなどの買い占めが起きたのは、日本人の不安耐性の弱さを如実に表しています。さらにマスクの着用義務が解除された今でも、ほとんどの人がマスクを持ち歩いています。

厚生労働省の人口動態統計によれば、2022年の新型コロナウイルス感染症による死亡数は、約4万8000人でした。

しかし同じく2022年、通常の肺炎で亡くなった人も約7万4000人いましたし、がんは約38万6000人、心疾患(高血圧性を除く)で亡くなった人は約23万3000人もいました。

この数字を冷静に眺めれば、がんや心疾患の予防にももっと熱心であるべきだと思いますが、日本人の新型コロナに対する不安の持ち方はちょっと異常に感じます。

教育の現場でも、不安の感情が過剰になっています。

「あだ名ではなく、さん付けで呼びましょう」

昨今、小学校では「ニックネーム禁止令」が出されるようになり、友達を呼ぶときは「○○さん」と名前で呼びなさいというのです。

学校図書館で一緒に勉強する日本人女子学生
写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです

禁止の理由は、ニックネームがいじめのきっかけになるから。

確かに悪意のあるニックネームは、大人がきちんと注意すべきでしょう。

しかしニックネームは親しみを込めてつけられるものもあり、人と人の距離を近づけ、親密性を高めるきっかけにもなる。将来、同窓会で再会したときなどは、やはりニックネームで呼び合うから、一気に子供の頃に戻れるというようなこともあると思います。

それを大人が「いじめが起きるのが怖い」と過剰に不安になって、子供たちのニックネームにまで干渉しているのです。

ところで、日本人に不安遺伝子を持つ人が多い理由として、日本が昔から「自然災害が多い国」だったからだといわれています。

2011~2020年に起きたマグニチュード6.0以上の地震は、全世界の17.9%が、日本周辺で発生しています(国土交通省「2021河川データブック」より)。2024年1月1日に能登半島を襲ったマグニチュード7.6の巨大地震は、私たちに震災の怖さをあらためて想起させました。

不安が強い割にソリューションを考えない悪いクセ

世界の活火山は、約1割が日本に集中しています。

台風は1年に何度も上陸し、重大な被害を毎年出しています。

自然災害は、場合によっては命を落とす危険性をはらんでいます。

身の危険をできるだけ早く、敏感に察知できる能力は、生存確率をあげることとイコールになります。

それならば、ちょっとした「不安」にも、早く気づけるほうがいい――。

日本人は「不安遺伝子」を多くすることで、数々の自然災害をサバイバルしてきたとも考えられます。

けれど、どうでしょう?

VUCAブーカ(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)の時代といわれているように、自然災害はともかく、社会、経済、政治、あらゆるものが変わり目を迎えています。

AI(人工知能)に代表されるテクノロジーは恐ろしいスピードで進化して、ついていくのもやっとです。世界中がインフレを続ける中で、その解決策を見つけ出せている国はほとんどありません。

ロシアのウクライナ侵攻は出口が見えないまま、中国や北朝鮮といった他の国と周辺国との緊張感も急速に高まっています。これも日本に本当に攻めてくるかを確率で考えると、不安の持ちすぎかもしれませんが。

もし、本当に不安遺伝子が他国の人より多く、生き延びるために発動し、ちゃんと思考できるなら、日本人こそが、この大きな潮流をつかみ、変化に対応した賢い策を実行できるのではないでしょうか? 危機回避する能力が高いのだから、それができそうに思えます。

日本人は不安が強い割に、ソリューション(解決策)を考えない悪いクセがあります。

がんを非常に怖がってがん検診を毎年受けるのに、見つかったときにどこでどんな治療を受けるかを考えていない。認知症を異常に恐れるのに、なった際の介護保険の使い方を知らない。

ニックネームを禁止してまでいじめをなくそうとしているのに、いじめられたときに子供に何をすべきかを教えない、といった具合です。

これにも当然、理由があります。

不安に対する過度の恐怖心が、「損失回避の法則」と結びついているからです。