「船主」という大口顧客をつかまえた

そして、ひとりの顧客と出会った。話をしに行ったら、その顧客は「わかった。じゃあ、よろしく」と平崎に運用を依頼したのである。そして、「同じ仕事をやっているから」と仲間を何人も紹介してくれたのだった。

平崎は「あの人こそ恩人です」と言った。

「海事(海運、船舶関係)の仕事をしている方で、船主の方でした。シンガポールと香港は海事会社の法人税がほぼゼロなんです。シンガポールでは認定国際海運企業(Approved International Shipping Enterprise:AIS)に認定されると、外国船籍であっても海運収益に対する法人税が免除になります。

平たく言えば船主であれば税金を払わなくていい。だから、シンガポールには船主が集まっています。シンガポールとしては船主からの税収を得るより多くの船に寄港してほしい。そこでお金になればいいんでしょう。世界ではシンガポールの他にパナマでも同じような優遇制度があります。ですが、日本人でパナマに住んでいる人って、あまり聞いたことがない。

船主さんはタンカー、バルカー(バラ積み船)などを所有していて、それを日本郵船、川崎汽船といった運行会社に貸し出す。マンション経営する不動産オーナーみたいな存在です」

平崎さんが考える営業とは「金融商品を売ろう」ではなく、「生活のすべてを投入して、サービスすること」だという
撮影=永見亜弓
平崎さんが考える営業とは「金融商品を売ろう」ではなく、「生活のすべてを投入して、サービスすること」だという

「買ってくれ」「お願いします」ではない営業がある

「タンカー、バルカーは何十億もする船です。1隻を売って、新しい船を建造する場合、日本で売ると、利益に税金がかかる。ところが、シンガポールではかかりません。利益をストックしてさらに高価な船を買うことができる。日本だと税金を取られるから新型の船を買おうとしてもなかなか買えない。すると、香港やシンガポールの競合他社に負けてしまう。そこで船主さんはシンガポールに住むんです」(略)

平崎はやはり幸運だった。シンガポールならではの仕事をしている顧客に出会うことができたのである。顧客を獲得した直後から、平崎は営業に打ち込んだ。それは「株を買ってくれ」「債券もお願いします」といったストレートな売り込みではない。

「顧客を人間としてリスペクトして好きになる」ことが彼の営業だ。

平崎の言葉ではこうなる。

「お客さまを好きになります。アイ・ラブ・ユー作戦と言いますか。何を望んでいるかを一日中、考えることです。この金融商品を売ろうではありません。生活のすべてを投入して、サービスするのです。だから、心からサービスしたいと思う人じゃないと、もうやりたくないんです」