他社の客であっても、困っていたら積極的に助ける
そんな会話の後、自宅へ行くと、「これに何が書いてあるか、よくわからないんだ」と見せられたのがスイスのプライベートバンクから送られてきた書類だった。「マンスリー・ステートメント」と書かれていた。
「月次収支残高の報告書ですね。私が見てもいいんですか?」
「ああ、書いてあることを説明してくれるとありがたいんだ。私は英語がわからないわけじゃないんだが、金融用語はちょっと苦手だからね」(略)
山本は「かしこまりました」と返事をして、何が書いてあるか、どう返事をすればいいかを懇切丁寧に教えた。用語の解説にとどまらず、資産家が投資した金融商品の意味、価値がどのくらいのものかまで専門家として教えた。
プライベートバンクは資産家に日本人担当者を付けることはするけれど、そこの日本人担当者が英語の文書を細かく解説することまではやっていなかったのだろう。もし、やっていたのであれば山本の出番はなかったからだ。
彼は言う。
「おもてなしスピリットです。大和証券に入った時から、そう教わりました。だから、お客さまの喜ぶことをやろうと決めていたのです。ただ、私自身が他社の報告書をすべて理解できているわけではありませんから『表記を完全には理解していませんよ。そういうリスクは負えませんよ』とは言いました」
「テレビのチャンネル設定」にも飛んでいく
「私がやったのは単に収支残高報告書を翻訳しただけではありません。他の会社に口座がある人でも、お客さまのためになることは何でも積極的にやりました。すると、日本人は、やっぱりやってもらったことに対して何かお返ししなくてはという気持ちになるんです。
私はそれを見込んで親切にするわけではありません。やっている時は見返りは考えていません。それがおもてなしスピリットなんです。私がやったことが他の方々にも伝わったようで、その後、『山本さん、子どもの学校を一緒に見に行ってくれないか』『シンガポールで自宅を買いたいけれど、一緒に下見してくれないか』と頼まれるようになりました。
『山本くん、引っ越したんだけれど、日本のテレビが見られないんだ』と言われたら、すぐ飛んでいってチャンネル設定までやりました。そうすると、お客さまも『どうしたらお返しできるのかな』と考えるようなんです。全力で、まず初めにおもてなしするしかないんです」