世界大会の決勝戦、沸く聴衆

8歳のときに韓国からオーストラリアに移住した著者は、当初は英語が話せなくて人と議論するのを避けていたが、先生に誘われて参加したのがきっかけでディベートにのめりこんだ。本書は、ディベートから多くを学び、世界の頂点にまでのぼりつめた著者が、自身の半生を振り返りながら、良い議論についてつづったものだ。

競技ディベートを見たことがないという方は、まずは実際の試合をYouTubeでご覧いただきたい。本書の第5章で描かれている、2016年にテッサロニキで開催されたワールド・ユニヴァーシティズ・ディベーティング・チャンピオンシップ(WUDC)の決勝戦だ。

試合が始まるまえから会場は沸いている。チームが紹介されるたびに拍手が鳴り響く。向かって左から2番目の席についた著者と相棒のファナーレ・マシュワマ氏は顔を寄せ合い、作戦会議を続けている。

論題が読み上げられ、一番手の著者はおもむろに立ち上がり、ゆっくりと歩いて演台につく。それまでとは打って変わって静まりかえる聴衆を前に、著者はスピーチを始める。よくとおる低い声で最初はゆっくりと一語一語、聴衆に語りかけるように、主張を伝えていく。

競技ディベートは「知のスポーツ」

スピーチは次第に熱を増し、途中相手チームから入るPOI(質疑応答)をさばいて観客からは歓声があがる。著者は本文中で、最後は足が震え、声もかすれたと書いているが、見ている限りそんな様子はまったくうかがえない。終始堂々としたスピーチだった。

そして、マシュワマ氏は演台に立ち、話しはじめるかと思いきや「ちょっと待ってください」と手にしたジャケットを着こみ、時間をかけてメモを並べ替える。そして軽く咳払いをしてから話しはじめ、やや早口で手ぶりを交えながら迫力あるスピーチを繰り広げる。終えたときには盛大な拍手と歓声があがる。そして、結果は本文にあるとおりだ。

もし言葉がわからなくても、世界最高峰の戦いの熱気が伝わってくるはずだ。競技ディベートが「知のスポーツ」であることを実感してもらえると思う。