エンパシーとシンパシーの決定的違い

冒頭で述べたとおり、このディベートを教育の一環として取り入れている国は多い。ディベートで勝つためには知識、論理的思考力、プレゼンテーション力のほか、チームで対戦するのでチームワークも必要となる。

試合形式には、事前に準備してのぞむ準備型と試合当日に論題と立場を与えられる即興型があり、準備型なら調査力、即興型なら瞬発力も鍛えられる。さまざまなスキルが身につくのは容易に想像できるが、より良いコミュニケーションの観点から、ここではディベートで養われるエンパシーと聞く力に注目したい。

競技ディベートでは、論題に対する各チームの立場(肯定または否定)は指定され、自分では選べない。つまり自分の考えとは違っていても、勝つためには与えられた立場で聞いている人を納得させなければならないのだ。そのためにはエンパシーの力がいる。

このエンパシー、日本語では「共感」と訳されるが、日本語で共感というとシンパシーを指すことの方が多い。エンパシーとシンパシーは違う。どちらも他者の考えや感情を共有することを指すが、ある程度相手と同じ気持ちになることを前提とするシンパシーに対して、エンパシーは同じ気持ちになる必要はない。求められるのは、理性的に他者を理解しようとする姿勢だ。シンパシーに後押しされて噛み合わない議論が多い今、エンパシーの重要性は増しているように思う。

コミュニケーションの第一歩は「聞く」こと

もう一つは聞く力だ。競技ディベートには反駁のパートがある。第三者の審判を説得するためには、自分たちの意見を述べるだけではなく、相手の意見に適切に反論する必要がある。

そのためには、何よりもまず相手の話をよく聞かなければならない。相手の主張を理解せずにやみくもに反論しても誰も説得できないだろう。相手の言うことを聞いて理解する。簡単そうでいて実践するのは難しい。だが、これこそコミュニケーションの第一歩ではないだろうか。このエンパシーと聞く力、今の時代に特に求められているように思う。

耳に手を当てて聞く人
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