ビジネスの現場できれいごとを言うな
【富坂】熊谷さんのお話は、世界経済のプレーヤーとしてそろそろ中国も同じ土俵で話しましょうよ、ということだと思う。中国でビジネスをする場合に、例えばそれを言われた中国共産党も「ウチの家は、土佐犬を飼っているのだけれど、時々来客に噛みつくんだ。今さら犬をおとなしくさせろと言われても……。だったらウチの敷地に入るなよ」と思っているはずです。いずれにしろその土佐犬が暴れたら、日中とも困るのは事実。土佐犬をどうマネジメントし、両方がウイン・ウインになるかが一番大事だ。
【宋】相手を勝たせなくてもいい。日本が勝てばいい。その代わり、ビジネスの現場で、文句を言ったり、きれいごとを言うのをやめてほしい。
日中の問題で絡めて言うべきでないが、中国の産業レベルはまだ低い。今まではコストが安いことで製造業に傾いていたが、今後はそうはいかなくなる。かといって中国を高度の技術を自らの手で創出する社会に変えるためには法律の整備、著作権の保護などをやる必要があるが、急いでも10年や20年はかかる。こうした産業は製造業とは違うから、日本とのトラブルとは関係なく、きちんと対処しておかないと中国にとって大変な事態になる。その意味でも今後の中国経済のためにも一度不況を経験することが必要だ。鉄パイプを売り、マンションを売って大儲けしている連中が大きな顔をしているようではだめ。中国の経営者を対象にした講演でも、この痛みを経験しないとあなた方は謙虚にならないと話している。
【熊谷】私は中国経済をそんなに悲観的には見ていない。というのも景気が減速してきた理由は、2011年にインフレ懸念があって消費者物価指数が6.5%まで上がり、相当引き締めた。今は2%ぐらいまで下がってきているので12年6月から金融緩和に舵を切った。もう1つはヨーロッパ。大体中国の輸出の2割弱がヨーロッパ向けなので、当分は厳しいと思う。けれども国の財政状況はそんなに悪くない。中国にとって本当に怖いのは、政治体制の動揺を招きかねないインフレだ。デフレ的な状況は金融政策や財政政策である程度対処できる。もうちょっと長い目で見ると、政治が集団指導体制による漸進主義なので、いろんな問題を何とか先送りしながら、あと5年ぐらいは景気の急減速は回避されるのではないか。
【富坂】要するに公共事業でなんとか保たせるという意味ですよね。
【熊谷】そうです。10年から20年で見たら、先送りした問題が一気に噴き出てくる。きっかけはいろいろあると思うが、大きな要因は設備の過剰によるストック調整。賃金上昇からくる悪性のインフレになる可能性。それらを受け、政治リスクと絡めて諸外国が一斉に投資を控えることが起きかねない。その根底にあるのは15年ぐらいから人口が減っていく少子化の問題で、そうなると将来的に財政状況が非常に悪くなる可能性が高い。これらがスパイラル的に一気に噴出するリスクを警戒すべきだ。