「好き」と「主体性」はつながっている
東京五輪時のホーバス氏のスタイルは私から見ると、いまの恩塚ジャパンと少なからず異なるように映る。ただし、恩塚HCは「善し悪しじゃなくて、単なる“違い”です。トムが成し遂げたことをリスペクトしています」とうなずいた。
選手は勝ちたい。コーチの期待に応えたい。だから頑張る。ところが、良いプレーをしたらひと息つきたくなる。その時に、相手にやられたり、ミスしたりする。そういったことが起きるのを恩塚HCは見てきたという。スポーツでよく言われる「点の選手」だ。これに対し、安定している選手は「線」でプレーできる。モグラ叩きをする必要がない。
「選手が心からそれをやりたい気持ちだったら、できることを自ら探すじゃないですか。そのほうが強い。例えば、自分の大好きな人に会うとか、大好きなところに行くって考えたらワクワクする。そんな心の状態になれたら、選手も幸せだし、コーチも幸せだと思います」
以前は、オフの日も練習してほしいと思っていた。選手をバスケットで縛りたかった。自分自身も筑波大時代、誰もいない体育館で黙々とシューティングをする。そんな選手だった。だから自分の選手もバスケットに夢中にさせておかなければ――同じ価値を置くことを求めていた。それが互いを苦しめ、決して幸せじゃないことに気づいたのだ。
「選手はバスケットが好きで夢中になっていたら、遊び回ったりしません。好きが最強なんです」
「好き」という気持ちは、主体性と地続きだ。恩塚ジャパンは、最強の学びをその手に抱えパリに乗り込む。