低予算だからこそ1970年代感を出せた
僕がおもしろ系の映像にこだわるのは、もちろんそういうものが好きだからというのが最大の理由ですが、東京よりも低予算になることが多い関西の広告業界で長年経験を積んできたから、ということも大きいです。
というのも、経験上、映像で感動させたり泣かせたりするには、感情移入させるために映像のリッチさ、感動を生み出すためのシチュエーションや照明や撮影機材、そして尺の積み重ねが必要であり、どうしても予算の低さはマイナスに転ぶことのほうが多いからです。カッコよさやおしゃれさに関しても同様です。
一方で、おもしろ系は数十秒~数分で十分効果的な映像がつくれるし、予算が低くてもその安っぽさを逆手にとって笑いにできる側面があります。予算がないときほど、おもしろ系のほうがコスパ良くクオリティを高められるのです。CMなどを流す媒体費においても、少ない出稿量で記憶に残すことができます。
たとえば、『TAROMAN』は外でロケをするほど予算がなかったので、特撮ではない人物パートもすべて昔の写真やミニチュアを背景に合成して撮影したのですが、それがかえって味となり、印象的な70年代感を出すことができました。
これで中途半端に予算があったら、中途半端な規模のセットを組んでしまったり、限られた現存する昭和風のロケーションで無理やりロケをしようとしたりして、同じところばかりが舞台になった狭い世界観の映像になってしまっていただろうと思います。
現存しない古い写真やミニチュアを背景にすることで、虚構の世界観をより強く押し出すことができたのです。
条件が悪いときのほうがアイデアが生まれやすい
思い返せば、滋賀県の「石田三成CM」のときは、撮影場所が映像用ではなくて、武将の鎧などを着て記念撮影するフォトスタジオでした。映像を撮影するにはあまりに狭かったので、開き直って合成用のブルーバックの布を支えている柱をそのまま映したら、逆にそれが昭和のローカルCM感を醸し出し、おもしろさに繋がったということがありました。
なまじ予算があると、リッチな絵で点数を上げられるので、絵をリッチにすることが目的になってしまいがちです。すると撮れた時点で安心してしまい、なんとか点数を上げようとする工夫をしなくなる、ということが起きます。さらには予算が増えて、多くの人数が関わるほどに、気軽にあれこれ試行錯誤する余地がどんどん減っていきます。現場の思いつきでちょっとアングルを変えようとするにも大騒ぎになってしまうのです。
むしろ制作の条件が悪いときのほうが、その状況を打開しようとおもしろいアイデアが生まれやすくなります。逆境を活かしやすいという意味でも、おもしろ系の企画には強度があるのだと思います。